第267回 憲法法廷の変革について

2018年末、台湾の司法制度に多くの重大な変化が生じました。「大法廷制度」が新設されること(前回コラムを参照)になったほか、12月18日に立法院を通過した「憲法訴訟法」により、裁判所の判決の合憲性について市民が直接異議を申し立てられる制度も、「憲法訴訟法」の公表から3年後に導入される予定となりました。

従来の台湾の違憲審査制度では、各裁判所は自らで違憲判断を行うことはできず、司法権の最高機関である司法院のみが一元的に判断を下せる中央集権的なものであり、司法院も、法令が憲法違反であるか否かを審査するのみで、個々の事案に対し具体的な審査を行っていませんでした。

「憲法訴訟法」の導入後は、司法院による事案審理が、全て裁判形式となります。裁判の形で審理結果が言い渡されるようになることで、司法院による憲法審査の効力が裁判所によって確定された最終判決にまで及ぶことになります。つまり、台湾の違憲審査制度は、密室会議で抽象的に法令を解釈するだけではなくなり、個々の事案を具体的に審査することが可能となり、司法院は「第四審」となるのです。

司法院が「第四審」に

例えば、Aが刑事事件の嫌疑で勾留を請求され、勾留の根拠とされた法条は違憲ではないものの、裁判所が当該法条を不当に解釈したことによってAが勾留され、人身の自由が侵害されるといった権利が政府に侵害される状況に、大法官がより直接的に介入できるようになるメリットがあります。

また、台湾では一昨年に同性婚問題が活発に議論されましたが、例えば、立法院が差別的な法案を可決した場合、立法委員の総数の3分の1以上の署名によって、当該法案が違憲か否か、人民が享受する幸福の自由を侵害するか否かについての裁判を、憲法裁判所に申し立てることができるようになります。

なお、司法院は通常の裁判所の事件割当メカニズムを備えておらず、全ての事件が15人の大法官の合議によって審査されます。また、大法官の選任は、通常の裁判官のように司法試験合格者が配属されるのではなく、総統が指名し、立法院の承認を受けて任命されるもので、「司法院組織法」第4条の規定により、弁護士、学者、政治経験が豊富な者も指名を受けることができます。従って、大法官は通常の裁判所の裁判官よりも、政治的色彩を帯びています。

これまでは大法官の人選を左右するのは与党であり、そのスタンスが「第四審」の判決にどのような影響を及ぼすのかが将来的に注目されます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。