第288回 プライバシー侵害の責任
昨年3月、ある週刊誌の記者が、モデルで女優の林志玲(リン・チーリン)の家の向かい側にある山から林志玲の家の中の状況を撮影し、その写真を週刊誌に掲載しました。林志玲は家の中の生活を盗撮され、プライバシーを侵害されたと考え、この週刊誌の編集長、副編集長、写真を撮影した記者に1,000万台湾元(約3,400万円)の賠償を請求。今年4月に判決が出ました。
本件で週刊誌側は、撮影地点は道路の脇で、林志玲は自ら外から見えるベランダに近づいたため、プライバシー侵害には当たらないと主張しました。しかし、士林地方法院(地方裁判所)は、記者が撮影に用いた機材は高画質・高性能で暗闇の中でも映像を捉えることができること、林志玲は家で日常的な活動をしておりメディアに生活を公開されるのを望まないとして、記者ら3人に、連帯して80万元を賠償するよう判示しました。
法律の規定
民法第195条第1項では、他人がプライバシーを不法に侵害した場合、被害者は、その損害が金銭上の損害でないときでも、金銭による相当の賠償を請求できると明確に規定されています。
また、上記事案では、刑事告訴はしていないようですが、刑法315条の1では、正当な理由なく、他人の非公開活動を撮影した場合には、秘密妨害罪が成立し、3年以下の有期懲役、拘留、または30万元以下の罰金に処すとされています。
寝顔撮影でも刑事罰の可能性
刑法315条の1に関連して、女性がホテルで、交際している男性が寝ている間に横顔を撮影し、友人にその写真を送信したところ、この女性と別れた後に男性が気付き、女性を刑事告訴するという事件が最近ありました。この事件について台北地方裁判所は、秘密妨害罪が成立すると判断しましたが、撮影したのが1枚だけで、撮影対象がプライベートな部位でないことから、侵害が軽微であるとし、拘留10日(罰金1万元に変更可能)および携帯電話没収と判示しました。
携帯電話のカメラなどで人物を撮影する機会があるかもしれませんが、上記のような責任を負わないためにも、原則として、事前に撮影対象の同意を得ることをお勧めいたします。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。