第299回 タピオカミルクティー発明者の争いに関する名誉毀損訴訟
日本でタピオカミルクティーが人気を集めていますが、台湾では2006年、「翰林茶坊」と「春水堂」の間で、どちらが発明者であるかの見解表明を巡って民事訴訟が展開されたことがあります。
民法による名誉の保護
民法第184条第1項前段、第195条第1項にはそれぞれ次のように規定されています。
- 故意または過失によって他人の権利を不法に侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う
- 不法に他人の身体、健康、名誉、自由、信用、プライバシー、貞節を侵害した場合、他人の人格に重大な損害をもたらした場合、被害者は、その損害が純粋な金銭上の損害でないときでも、金銭による相当の賠償を請求できる。侵害されたのが名誉である場合、被害者は、名誉回復のために適切な手段を講じることも請求できる
従って、名誉が不法に侵害された場合、金銭による相当の賠償や新聞での謝罪など名誉回復のための適切な手段を請求することができます。
名誉毀損に関する請求
翰林茶坊は、春水堂が04年2月に発表した『春水堂茶訊』の「誰がタピオカミルクティーを発明したのか」という文章で、翰林茶坊がタピオカミルクティーの技術を盗んだことをほのめかし、名誉を毀損(きそん)したと主張しました。
文章の内容は、次の通りでした。「春水堂は1987年春、地元の菓子のタピオカをミルクティーに加え、『タピオカミルクティー』と命名した。すると商売が繁盛したため、同業者が見学に来るようになった。台南の翰林茶坊の責任者は伝統的な茶屋を経営していたが、業務内容の変更を模索しており、台中に丸1週間滞在し、毎日店舗を訪れた。台南に戻った後、冷たい飲み物を専門に扱う店へと業務内容を変更した。タピオカミルクティーはその後、台湾全土に急速に広まった」。
また翰林茶坊は、タピオカミルクティーは86年末に同店が発明したものであると主張し、慰謝料として1台湾元(約3.4円)を賠償し、新聞で謝罪するよう請求しました。
名誉毀損に関する判断
しかし、裁判所は主に以下の3点に基づき名誉毀損の事実がないと認めました。
- 春水堂の証人が法廷で証言した、タピオカミルクティーを創製した過程が具体的である。かつ翰林茶坊の責任者が店内に出向いて見学した経緯を春水堂の証人が陳述した際、語気、物腰が落ち着いており、内容が虚偽だとは認めがたい。このことから、同文章の叙述が真実であると確信する相当の理由がある
- 翰林茶坊は86年末に白いタピオカのミルクティーを発明したと主張し、春水堂は87年春に黒いタピオカのミルクティーを発明したと主張した。それぞれ自らがタピオカミルクティーの発明者であると認めており、互いに衝突しない
- 「見学」は技術を盗んだことを意味しない。同業者の見学・考察はビジネス上、一般的なことで、蔑視や、侮辱、嘲弄(ちょうろう)の意味はない
言論の自由は憲法が保障する人民の基本的な権利で、台湾では特に重視されているため、民事・刑事訴訟上の名誉侵害範囲が制限されています。発表者の陳述が真実であると確信する相当な理由がある場合、通常、法律の責任によって処罰されることはなく、公正な評価を言論の自由市場に委ねています。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。