第301回 台湾法上の「印紙税」

いわゆる「印紙税」とは、証書に課される一種の税金です。印紙税法第1条は「本法に定める各種証書で、中華民国の領域内において作成されたものについてはすべて本法に従い、印紙税を納付しなければならない」と定めています。印紙税を課すべき証書については、同法第5条によれば、次の4種類が含まれます。

  1. 金銭の受取書:金銭の受け取りにおいて作成する証票、帳簿、通帳を指す。金銭の収受または代理受け取りに関する受取書、代金受け取りについての領収書、送金通知書、賃料受取簿、賃料受取通帳および代金支払簿などはすべてこれに該当する。ただし、営業インボイスの性質を兼ね備えている金銭の受取書および金銭の受取書の性質を兼ね備えている営業インボイスは含まれない(この部分の税率は、原則として、契約金額の1,000分の4とする)。
  2. 動産の売買に関する契約書:動産の売買において作成する契約書を指す(この部分の税率は、契約1件につき4台湾元〈約14円〉とする)。
  3. 請負に関する契約書:一方が他方のために一定の業務を遂行することに関する契約書を指す。例えば、各種工事の請負に関する契約、印刷物の印刷引き受けに関する契約、および代理加工に関する契約書などがこれに該当する(この部分の税率は、契約金額の1,000分の1とする)。
  4. 不動産の買い戻し特約付き売買、譲り受けおよび分割に関する契約書:不動産の買い戻し権設定および売買、交換、贈与、分割において作成する契約書で、主管機関に対し物権登記を申請するものを指す(この部分の税率は、契約金額の1,000分の1とする)。

重複課税の懸念

台湾では1934年より印紙税の徴収が開始されてから既に80年以上が経過しましたが、今年(2019年)9月に「印紙税法廃止案」が閣議決定されたため、立法院でも可決されれば、印紙税が全面的に廃止されることになります。台湾政府が印紙税の廃止を検討している主な理由は、財政部の説明によれば、現行の印紙税法に従うと、「金銭の受取書」、「動産の売買に関する契約書」、「請負に関する契約書」および「不動産の買い戻し特約付き売買、譲り受けおよび分割に関する契約書」など4種類の証書に印紙税が課されますが、実務上、同一の商業取引においては複数種類の証書が含まれる可能性があり、その上、取引双方はさらに所得税、営業税などの税金を別途納付しなければならないことから、重複課税の問題が生じる可能性が高いためです。

メディア報道によれば、18年の印紙税の税収額は122億元にも達しており、印紙税は台湾政府の重要な税収源の一つとなっていることから、印紙税に代わる他の税収源を獲得できるかどうかが、立法院が印紙税廃止案の審議において考慮する重要なポイントとなります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。