第303回 商業事件審理法草案について

重大な商業紛争の発生は、会社の株主や債権者の権益に影響を及ぼすばかりでなく、投資市場にも波及する恐れがあり、即時に処理しなければ、ビジネス環境全体にまで影響し、台湾の経済競争力を低下させます。そこで、商業事件裁判所を設置し、重大な商業案件を専門的かつ迅速に処理できるよう、関係法規の整備が進められています。その主要法規の一つとして司法院が作成した商業事件審理法草案の主な内容は以下の通りで、今後、立法院にて審議されます。

立法院で審議へ

1.適用対象事件(第2条)

①会社責任者が業務の執行により、会社との間で生じた民事上の権利義務に関する争議で、訴額が1億台湾元(約3億5,000万円)以上である場合②証券関係法令に違反したことにより生じた民事上の権利義務に関する争議で、訴額が1億元以上である場合③公開発行会社の株主の権利行使により生じた民事上の争議④公開発行会社の株主総会または董事会の決議の効力に関する争議等が同法の適用対象とされています。

2.弁護士強制代理(第6条)

当事者らの訴訟または非訟手続上の権益を保護するため、当事者らは、弁護士に手続きを代理してもらわなければなりません。なお、法人などに弁護士資格を有する者が所属している場合、商業裁判所の許可を得て、その者を手続き代理人とすることが可能とされています。

3.科学技術の運用(第14条、第15条)

当事者らは、オンラインシステムで書状を提出しなければならず、また、裁判所は、適当と認めるとき、申し立てまたは職権により、音声および影像の伝送設備を使用し審理を進行することができます。

4.調停前置主義(第20条)

商業事件は、原則として、訴訟提起の前に商業裁判所の行う調停手続きを経なければなりません。もし調停手続きを経ずに訴訟提起した場合、調解の申し立てと見なされます。

5.当事者問い合わせ制度(第43条)

訴訟戦略の評価や手続きの進行に資するよう、当事者は、その主張または立証の準備のため、必要事項を列挙して、相手方に問い合わせ、具体的な説明を請求することができます。

6.専門家証人の意見(第47条、第50条)

当事者は、裁判所の許可を得て、専門家証人に専門的な意見の提供を申し出ることができます。他方当事者は専門家証人に質問を提出することができますが、その質問に対する専門家証人の回答は専門的な意見の一部と見なされます。

7.秘密保持命令(第55条)

手続進行中に提出された文書、検証物または鑑定に必要な資料が営業秘密にわたる場合、その所持者は、裁判所に対し、秘密保持命令を発するよう申し立てることができます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。