第305回 相続制度の「全面限定承認」
台湾の相続制度
台湾の相続制度には、「相続放棄」、「単純承認」、「限定承認」の三つがある。このうち、「相続放棄」は相続に関する一切の権利義務を放棄することで、「単純承認」は全面的に相続を引き受けること、また「限定承認」は相続財産を限度として相続債務につき責任を負うことであり、日本法の概念と類似すると考えられる。
また、2009年6月10日に民法相続編が改正される前は、限定承認をする場合には、裁判所に申し立てをすることが必要だったが、改正後は、「全面限定承認」の原則が適用されるようになった。つまり、過去にさかのぼって、またわざわざ裁判所へ申し立てる必要もなく、子は、父母が残した債務について、成年であるか否かにかかわらず、相続財産を限度として弁済責任を負うだけでよくなった。
遺産目録の報告
なお、「全面限定承認」の原則の適用後も、法により限定承認が適用されるとはいえ、不確実性のリスクに直面する可能性がある。
なぜなら、裁判所を通じて公告をしていないため、相続人が弁済できるのは既知の債権者に対してのみであり、債務の額が遺産の額より大きくなった場合には、既知の債権者の比率に応じて弁済することになる。その後、さらに未知の債権者が現れて弁済を主張すれば、相続人は限定承認を主張することはできず、自分の財産を差し出して弁済しなければならなくなる可能性がある。
そのため、相続人は、遺産目録を作成して裁判所へ報告し、裁判所から公示催告という手続きによって被相続人の債権者に対してその債権を一定期間内に申告するよう命じることで、その一定期間の満了後に、当該一定期間内に申告した債権者、および相続人が既知の債権者に対してのみ、各債権額に応じて、被相続人の遺産から弁済することが可能であるので、推奨したい。
日本人との関連性
日本の改正家事手続法(19年4月1日施行)第3条の11により、相続に関する審判事件について、被相続人が相続開始より前に住所を日本国内に有していても、その後に外国に住所を有していた場合、日本の裁判所は管轄権を有しないとされている。
そこで、日本国民が台湾に居留して亡くなった場合、相続に関する審判事件は日本の裁判所で受理されず、台湾での解決を求めざるを得ない状況が考えられる。その際、台湾に管轄権があるか否か、準拠法は日本法か台湾法かは、各事案の具体的状況により異なる。
また、日本にも台湾にも、相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に関連手続きを申し立てなければならないという制限が存在する。よって、上記状況が生じた場合には、早めに弁護士に相談することをお勧めする。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。