第312回 契約条項と事情変更の原則
契約が成立すると、原則として当事者はその内容に拘束されます。しかし、契約締結後にどのような事情があっても契約内容を順守しなければならないとすると、不公平な結果になってしまうことがあります。そこで、民法第227条の2第1項では、契約成立後、契約締結時に予測できない事情の変更があり、当初の契約内容の履行が明らかに公平を欠く場合、当事者は、給付の増減または当初の契約の法律効果の変更を裁判所に申し立てることができるとされています。
2019年7月18日、契約書に「物価変動を理由に契約代金を調整しない」旨の規定がある場合に、事情変更が主張可能か否かについて、最高法院民事判決が下されました(107年度台上字第1197号)。
この判例によりますと、「契約締結時に予測できない」とは、事情変更の状況が、当事者が契約締結時に予見できないリスクであり、または予見できるが合理的に損失・損害の発生を防止できる措置がなく、その損害が予期した制御可能な範囲を超えていることを指します。そして、工事請負契約の当事者が、契約において、物価が変動しても請負代金を調整しないことを明記していたとしても、その物価変動のリスクが合理的な範囲を超えている場合には、なお事情変更の原則の適用があると判断されました。
予測可能なら「契約神聖」の原則
もっとも、事情変更の原則が適用されるのは、あくまで事情の変更を予測できない場合に限られます。この点について最高法院103年度台上字第2605号民事判決では、当事者が契約において、事後に発生するリスクについてあらかじめ公平に分配する約定をし、当事者の真意、契約の内容および目的、社会経済状況と一般観念を総合し、当該リスクに係る事故の発生およびリスク変動の範囲を当事者が契約締結時に予測できたと認められる場合、「契約厳守」および「契約神聖」の原則に基づき、当事者は原契約の約定に基づき権利を行使することができるのみで、事情変更の原則を根拠に給付の増減を請求することはできないと判断されています。
以上の通り、「契約厳守」、「契約神聖」の原則から、当事者は基本的に契約内容に拘束されますが、事情変更の状況が合理的な範囲を超えている場合には、当事者が契約において契約代金を調整しない旨を規定していたとしても、事後に契約代金が増減される可能性があることにご留意ください。
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執筆者紹介
大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。