第323回 事業者結合申告を行わない場合の処罰

公正取引法第10条第1項によると、

①他の事業者と合併する場合
②保有または取得する他の事業者の株式または出資額が、他の事業者の議決権付株式総数または資本総額の3分の1以上に達する場合
③他の事業者の全部もしくは主要な部分の営業もしくは財産を、譲り受けまたは賃借する場合
④他の事業者と経常的に共同経営をし、もしくは他の事業者の委託を受けて経営する場合
⑤他の事業者の業務経営もしくは人事任免を直接的もしくは間接的に支配する場合

以上の場合、事業者結合と定義されます。

また、同法第11条第1項によると、

①事業者結合により台湾市場占有率が3分の1に達する場合
②結合に参加する一つの事業者の台湾市場占有率が4分の1に達する場合
③結合に参加する事業者の前会計年度の売上高が公平交易委員会(公平会、公正取引委員会に相当)の公告する金額を超える場合

以上の場合、事前に申告しなければなりません。

異業種結合でも申告条件あり

通信キャリア大手、台湾大哥大(台湾モバイル)は、2018年7月に孫会社を通じて化粧品会社の千卉国際(BEBE POSHE)の85%の株式を取得しました。同社の5席の董事(取締役)のうち4席を取得し、同社の業務経営および人事任免を支配することができるようになったため、同法第10条第1項の②および⑤に適合します。

17年には、モバイルブロードバンドサービス市場における台湾市場占有率が4分の1に達します。BEBE POSHEとの前会計年度の全世界での売上高の合計総額が400億元(約1,400億円)を超え、台湾の売上高が20億元を超えたことから、同法第11条第1項の②および③の申告条件に達しました。それにもかかわらず申告しなかったため、公正会から50万元の過料を科されました。

孫会社を実質的に支配

台湾モバイルの当該孫会社に対する保有株(44.38%)および取締役席次(9席の取締役のうち4席を占める)は過半数に到達していません。しかし公正会が確認した結果、当該孫会社で業務経営の意思決定について実質的に決定力を有する人員はいずれも台湾モバイルが間接的に派遣した者でした。

台湾モバイルは年次報告において、当該孫会社を合併財務諸表のグループ事業群の1社として計上した上で、当該孫会社の業務発展について発展計画および対応戦略を立案していました。また、当該孫会社の年次報告にも「台湾モバイルは合併会社の最終的に帰属する支配者である」などの関連情報が明記されていました。そのため、台湾モバイルが間接的に当該孫会社の業務経営、人事任免について実質的な支配力を有すると判断することができます。

台湾の事業者結合申告の条件の中で比較的特殊なのは、売上高の他、市場占有率についての規定もあることです。そのため、台湾において独占または寡占市場の事業者である場合、たとえ売上高が高くなくても、事業者結合申告の義務を有するかどうか、注意する必要があります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。