第340回 経営者は従業員のスカイプを監視できるか

 多くの経営者は、従業員の業務状況を監視するため、会社のパソコン内に監視ソフトウエアを設置しています。最近、会社の経営者が、従業員のスカイプ履歴を不当に監視したことを理由として、裁判所から有罪と認定される事例が発生しました。本件の概要は以下の通りです。

 甲はA社から離職する際、同社の経営者である乙ともめていました。甲と乙が口論になった際、乙が甲と友人との間のスカイプの詳細なチャット内容に言及したため、甲は乙が無断で甲のプライベートな会話をひそかに記録したのではないかと疑い、乙に対し刑事告訴を申し立てました。

 いずれの審級の裁判所も、調査の結果、乙は会社のPC内に「X-FORT(エックス・フォート)」という監視記録ソフトをインストールし、従業員甲のスカイプのチャット内容を監視記録しており、通信保障および監察法第24条第1項「違法に他人の通信を監察した場合、5年以下の懲役に処す」の規定に違反しているため、乙を懲役3カ月に処すると認定しました(判決番号:最高裁判所2019年度台上字第3919号判決)。

 各審級の裁判所が被告に対し有罪の判決を下した主な理由は以下の通りです。

事前告知が必要

  1. 乙は、甲またはその他の従業員に対し、会社が従業員のPC内に「スカイプ」、「LINE(ライン)」などの通信内容を監視記録することができる監視記録ソフトをインストールしていることを説明したことがありませんでした。
  2. 乙は、当該監視記録ソフトを使用する目的は、従業員の営業活動を監視するためであり、プライベートな会話をモニターするためではないと主張しました。しかし裁判官は、被告は「当該監視記録ソフトを使用する際、監視記録する内容を選別することはできず、会社の業務と関係のない他人のプライバシーを監視記録してしまう可能性もある」ことを明らかに知りながら、甲とその友人とのプライベートな通信内容を監視記録したため、違法に他人の通信をモニターするという犯罪の故意が存在すると認定しました。

貴社において、本事件のような法的リスクを避けながら、会社のPC内に監視記録ソフトをインストールしたいのであれば、本事件の判決理由にあるように事前に従業員に以下の事項を告知することをお勧めします。

  1. 当社の従業員は、会社のPCを使用して、プライベートな通信または業務と関係のないその他の行為をしてはならないこと。
  2. 当社の運営、秘密保持などの必要により、当社はPC内に監視記録ソフトをインストールしており、従業員のPCの使用状況は全て監視記録されること。
  3. 従業員が会社のPCを使用してプライベートな通信など規則違反の行為をした場合、当該行為も監視記録されること。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。