第347回 中国資本投資制限の改正

 中国政府からの経済的コントロールを避けるため、中国の人民、法人、団体、その他の機構(以下「中国投資者」)またはこれらが他国・地域で投資する会社が台湾へ投資する際には、経済部投資審議委員会(投審会)の許可が必要となります。現行法では、中国投資者が他国・地域で投資した会社の株式を直接的または間接的に30%以上保有する場合、またはその会社を支配する能力を有する場合、当該会社は中国投資者と見なされ、中国投資者と同じ制限が適用されます。

 急速に悪化している香港の政治状況を背景として、経済部はこのほど、中国投資者に関する認定・制限を厳しくするよう法改正を検討していると表明しました。「いずれかの親会社の中国資本が3割を超える会社、または背景に中国の党派、政府および軍隊の力がある、中国資本が実質的な支配力を有する会社はいずれも中国資本と認定される」という方針で新基準を検討しているとのことです。

各層の親会社ごとに認定

 現行法では、投資対象の台湾会社の株式における投資後の中国資本の比率についてのみ計算し、中国資本の保有株の合計が3割を超える場合に初めて中国投資者と認定されます。一方、経済部が表明した新規定に基づく場合、将来的に「層ごとの認定」に変更される可能性があります。すなわち、投資者の株主構成のいずれかの層の親会社で中国資本の保有株が3割を超えた場合には、中国投資者と認定されることとなります。

 越境電子商取引(EC)の蝦皮購物(ショッピー)を例とすると、ショッピー台湾子会社の親会社はシンガポールのSeaグループです。同グループの筆頭株主は中国企業の騰訊控股(テンセント・ホールディングス)であり、保有株は3割を超えます。しかし、テンセントの株主構成における中国資本は約6割であり、現行法により計算すると、Seaグループの中国資本は3割以下(30%×60%=18%)となり、中国投資者には該当しません。

 ただし、経済部の改訂方針によれば、テンセントの株主構成における中国資本が3割を超え、Seaグループへの投資も3割を超えるため、Seaグループは中国投資者と認定されます。さらにはSeaグループのショッピー台湾子会社における保有株も3割を超えるため、ショッピー台湾子会社も中国投資者と認定される可能性があります。

国際情勢次第で変更も

 新規定はまだ検討階段ですが、以前より台湾における中国資本の投資への制限は非常に具体的かつ厳格なもので、また国際政治情勢の変化に応じて変更される可能性があります。日系企業が台湾に投資する際は、各層の親会社の中国資本が占める割合および中国出身の役員の有無について詳細に調査するほか、投資制限の適用の有無について現地の弁護士のアドバイスを求めることをお勧めします。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。