第353回 保険金は遺産に含まれるか

 生命保険の受益者は通常、父母、配偶者、子供といった親族を指定します。さて、生命保険の保険金は遺産に含まれるのでしょうか?これは▽保険金に相続税が課されるのか▽被相続人の債権者は保険金の差し押さえを申請できるのか▽被相続人は保険金を債務の弁済に充てられるのか──などに関わってきます。

受益者の指定があるか

 保険法(以下同じ)第112条には「保険金について、被保険者の死亡時に自身が指定する受益者に給付する、と約定した場合、その金額は被保険者の遺産としてはならない」と規定され、第113条には「死亡保険契約において受益者を指定していない場合、その保険金は被保険者の遺産とする」と規定されています。

 上記の条文から、生命保険において受益者が指定されている場合、当該保険金は被相続人の遺産とされず、指定された受益者が当該保険金を受け取ることができ、被相続人の債権者によって差し押さえを申し立てられることはなく、被相続人の債務の弁済に充てられることもないことが分かります。

 また、台湾の遺産および贈与税法第16条第9号の規定によれば、「被相続人の死亡時に、自身が指定した受益者に給付する、と約定した生命保険金額については、遺産総額に計上しない」とあるため、受益者が指定されている状況において、当該保険金は相続税の課税範囲にありません。保険金は被保険者の遺産ではないため、仮に被保険者の法定相続人が相続の放棄手続きを行ったとしても、当該法定相続人が保険金の受益者の身分を有する場合は、保険金を取得できると解されます。

法定相続人は受益者になり得る

 指定された受益者が被保険者よりも先に死亡した場合、第110条の「保険契約者が指定する受益者は、保険金請求時に生存する者に限る」という規定に従い、保険契約者が別途受益者を指定せず、被保険者も死亡したときは、受益者が存在しないということになるため、保険金は被保険者の遺産となるという第113条の状況に該当します。

 よって、▽保険金に相続税が課される▽被相続人の債務の弁済に用いられる──などのリスクを軽減するために、生命保険の受益者を指定する際には、特定の対象を指定した後、「法定相続人」も次の順位として記入することをお勧めします。そうすることで、法定相続人が保険金を遺産として相続するのではなく、受益者として取得することができます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。