第358回 有効な遺言書の作成
台湾社会の注目を集めた台湾の著名な企業家、長栄集団(エバーグリーン・グループ)総裁の故・張栄発氏の遺産紛争について、台北地方法院(地方裁判所)は先日、第一審判決を下し、張栄発氏の遺言書は有効であり、息子の張国煒氏が一人で140億台湾元(約510億円)の遺産を相続すると認定した。
本件の概要は以下のとおりである。
封印のある遺言書
一、張栄発氏は生前、「封印のある遺言書」の方法で、全遺産を後妻との息子張国煒氏に相続させることを決定していた。
2016年に張栄発氏が亡くなった後、先妻との息子は張栄発氏が精神状態に問題のある状況で当該遺言書を作成したと考えたため、張国煒氏を被告として、当該遺言書の無効を主張した。
二、台湾民法第1192条第1項では、「封印のある遺言書は、遺言書に署名した後、それを封印し、封じ目に署名して、2人以上の立会人を指定し、公証人に提出して、それが自身の遺言書であることを陳述しなければならず、本人の自筆でない場合は、さらに、清書した者の氏名、住所を陳述しなければならず、公証人が封筒表面に当該遺言書の提出年月日および遺言者による陳述を明記し、遺言者および立会人と共に署名する」と規定している。
三、本件の担当裁判官は関係する立会人、公証人を呼び出し、張栄発氏のカルテ資料および過去数年間の署名の筆跡を調査し、本件の遺言書が民法第1192条第1項の規定に適合していること、また、張栄発氏が意識の明瞭な状態で「封印のある遺言書」を作成したことを確認し、そこで、当該遺言書の有効、張国煒氏勝訴の判決を下した。
審理に4年
本件の特殊な点は、本件の争点は複雑ではないものの、裁判所は審理にほぼ4年もの期間をかけてようやく第一審判決をまとめ上げたという点にある。また、一般的には、張栄発氏の遺産は140億元にとどまらないと考えられている。そのため弊職は、原告の弁護士は「相手が現実に遺産を取得するのを阻止する」ことなどを考えて、策を尽くして訴訟手続を長期化させたと合理的に推測する。
当該判決に対して敗訴側の原告はすでに上訴を提起しているため、本件はさらに長引くと思われる。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。