第359回 企業合併・買収法の改正

 経済部は10月7日、「企業合併・買収法の一部条文の改正案」を公告した。今回の法改正は「非対称性合併」の範囲を大幅に拡大し、企業による合併・買収をさらに容易にするものである。

 「非対称性合併」は日本の商法の「簡易組織再編」を参考に制定されたものである。日本では2005年に「商法」の会社に関する規定が「会社法」に統合され、規定が調整され、合併・買収額が存続会社の純資産の2%を占めるという規制が20%に緩和されている。合併・買収の柔軟性や効率を上げるため、台湾の法改正も日本に倣って規制を緩和しており、大企業が中小企業を合併する際に支払う対価が大企業の純資産の5分の1を超えていなければ、取締役会で可決するだけでよく、株主総会の承認は不要となる。

 例えば、純資産が100億台湾元(約360億円)の大企業の場合、従来は2億元超の対価を支払って会社を合併・買収する際に株主総会の承認を得る必要があったが、規制緩和後は株主総会の承認なく、20億元の対価を支払って企業を合併・買収できるようになる。

非対称性分割にも適用

 また、これらの規定は「分割」にも適用される。例えば、会社の純資産が5億元の場合、従来は被分割部門の純資産が1,000万元を超える際には株主総会の承認が必要であったが、今後は被分割部門の純資産が1億元を超えてさえいなければ株主総会の承認は不要となる。

少数株主の保護

 注目すべき改正点は他にもある。会社が合併・買収の決定を行う際、従来は承認しない株主がそのときの公平な価格で株式を買い取るよう会社に要求する場合、株主総会の前か株主総会で異議を出すと同時に議決権を放棄しなければ、株式の買い取りを要求できなかった。

 この規定により、実務上、少数株主は買い取り価格についての交渉力不足となることが多かった。

 法改正後は、承認しない株主は、議決権を放棄する必要なく、否認票を投じた後も株式買い取り請求権を行使することができるようになる。これで、迅速に合理的な買い取り価格を提示するよう会社に求めることができるため、少数株主にとって有利なものである。

 今回の法改正はまだ立法院で可決されていないが、参考対象の日本法の改正に追随するものであるため、最終的な改正内容も日本法とかけ離れたものではないはずである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。