第379回 離婚時の未成年の子の親権

 メディアの報道によると、著名卓球選手の福原愛氏の夫である卓球選手の江宏傑氏が、4月下旬に、裁判離婚を請求する訴状を高雄地方裁判所に提出しました。

 家事事件法第3条第2項および第23条第1項によれば、離婚事件は強制調停事件に該当し、裁判官が審理する前に、先に裁判所の調停手続きを経る必要があります。このため、福原氏と江氏の離婚問題は、先に高雄地方裁判所の裁判官により調停が行われ、調停が成立しない場合は訴訟手続きに入り、裁判官により審理が行われ、判決が下されることになります。

 聞くところによれば、福原氏と江氏の双方とも離婚の意思を有していることから、本件の主な争点は「双方の財産をどのように分配するのか」と「二人の子どもの親権をどのように処理するのか」ということになるはずです。

夫婦で親権共有も

 前者に関しては、3月22日の本コラムで、台湾法上、夫婦が離婚する時の財産はどのように分配するのかについて説明しました。後者に関しては、台湾法では次の主な規定があります。

一、民法第1055条

(第1項)夫婦が離婚する場合、未成年の子に対する権利義務の行使または負担については、合意により、一方または双方が共同でこれを引き受ける。

 合意しなかったとき、または合意が成立しないとき、裁判所は夫婦の一方、主管機関、社会福利機構もしくはその他の利害関係人の請求により、または職権により、事情を斟酌してこれを決定することができる。

(第2項)前項の合意内容が子にとって不利であるとき、裁判所は主管機関、社会福利機構もしくはその他の利害関係人の請求により、または職権により、子の利益のために当該合意内容を変更の上、決定することができる。

 本条の規定により、福原氏と江氏の二人の子どもの親権の帰属に関しては、先に福原氏と江氏が協議の方式により決定し、合意に達することができない場合は裁判官により決定されることになります。

 注意に値するのは、台湾法では、夫または妻の一方が子の親権(監護権)を取得する以外に、夫婦が共同で親権を共有することも認められているという点です。この点が夫または妻の一方が子の親権を取得しなければならないとされている日本法における状況とは異なります。

子の利益を優先

二、民法第1055条の1第1項

 裁判所が前条の裁判を行うに当たっては、子の最善の利益に従い、一切の情状を斟酌しなければならないものとし、特に次に掲げる事項に注意しなければならない。

  1. 子の年齢、性別、人数および健康状態
  2. 子の意思および人格形成上の必要
  3. 父母の年齢、職業、品行、健康状態、経済力および生活状況
  4. 子を保護し、教育・養育することに対する父母の意思および態度
  5. 父母と子の間または未成年の子と他の共同で生活する者との感情の状況
  6. 父母の一方に他方の未成年の子に対する権利義務の行使・負担を妨げる行為があるか否か
  7. 各エスニックグループの伝統・風習、文化および価値観

 本件においては、女性側が子どもを残して一人で日本へ戻っている上、不倫を疑われる大量の写真を日本で撮られています。また、男性側のモラルハラスメントの問題については有力な証拠がありません。

 もし福原氏と江氏が子どもの親権の帰属について合意に達することができず、裁判官により決定されなければならないとすれば、本条の上記第2、4、7号に基づき、裁判官が福原氏にとって不利な認定を行う可能性が高いと考えます。

 日台間の国際結婚紛争は、しばしば複雑な法的問題に関わりますので、正確かつ効率的に処理できるようにするためには、両国の法律に精通した法律の専門家に依頼すべきです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。