第393回 契約の準拠法

国際的な取引を行う場合、契約書で準拠法を定めることが多いです。準拠法とは、国際的な法律関係が問題になる場合に適用されるべき一定の法域における法を指します。台湾での訴訟において国際的な法律関係が問題になる場合には、渉外民事法律適用法に基づき、いずれの法域の法を準拠法とするか決定されます。

当事者の合意で決定

 同法第20条第1項において、債権・債務の成立および効力は、当事者の意思により適用すべき法律を決定するとされているため、契約当事者が契約書において、当該契約に適用する法律(日本法、台湾法または第三国・地域法)を合意することが可能です。台湾で訴訟をする場合に他の国・地域(日本を含む)の法律を準拠法とすると、法律の規定、解釈、裁判例などの資料を中国語訳して裁判所に提出する必要があります。また、台湾の裁判官は外国の法律に精通しているわけではないので、必ずしも妥当な解釈がなされるわけではありません。そのため、台湾で訴訟をする場合には台湾法を準拠法に指定することが一般的です。

最も関係が密接な法律を適用

 国際的な取引について、当事者が準拠法を明示していなかった場合、または明示した意思表示が無効である場合には、契約に最も関係が密接な法律が適用されます(同条第2項)。そして、法律行為により生じた債務に特徴を有するものがある場合、その特徴的な債務を負う当事者の行為時の住所地法が最も関係が密接な法律であると推定されます(同条第3項)。例えば、一般的な売買契約では、買い主は金銭を支払うのに対し、売り主は物の引き渡しを行うので、売り主の債務が特徴的な債務であると推定され、当該推定が覆らない限り、売り主の住所地法が適用されます。

 以上のように、契約において準拠法を指定していない場合には、法律の規定に基づき、当該契約の準拠法が決定されますので、仮に相手との関係上、契約書に準拠法を明記できない場合であっても、事前にどの国・地域の法律が準拠法となるか把握しておく必要はあると考えます。また、日本法が準拠法となる場合、日本は、「国際物品売買契約に関する国際連合条約」の締約国であるため、同条約の適用も問題になります。

 準拠法条項は軽視されがちですが、どこの国・地域の法律が適用されるか、条約が適用されるか否かで法律関係が大きく変わる可能性がありますので、他の契約条項と同程度、またはそれ以上に準拠法条項の検討は重要であると考えます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。