第403回 台湾法上の刑事捜査
最近台湾で、「警察が被疑者の身体検査を行い薬物を入手して逮捕したところ、当該被疑者が裁判所に異議を申し立てて成功し、それに伴い釈放された」という特殊なケースが発生しました。
薬物を発見
本件の概要は次の通りです。警察は2021年11月6日の午前4時40分ごろ、台北市信義区で飲酒検問の公務を執行していた時に、配車サービス「ウーバー」の車両1台を停止させ、後部座席の男性乗客の身体検査を行った後、当該乗客が折り畳みナイフとケタミンという薬物を60グラム所持しているのを発見しました。そこで警察は「この男性は薬物所持罪の現行犯である」との理由でこの男性を逮捕し、警察局に連行して取り調べを行いました。この男性は逮捕された後もかなり冷静であり、即刻、「裁判所により本件の捜査手続の適法性を確認すべきである」と主張しました。
台北地方法院(地方裁判所)での受理後、裁判官は直ちに警察が捜査時に撮影した映像を検証し、「本件の捜査手続きは違法である」との判定を下し、この男性を釈放しました。主な理由は、「警察職権行使法第7条第1項第4号の規定によれば、警察の検問時において、自殺し、自傷しまたは他人の生命もしくは身体を傷つけるに足りる物品を所持していると認めるに足りる明らかな事実がある場合、警察はその身体および所持品を検査することができるが、本件では、警察はこの男性の身体に触れた(検査した)後にポケットの中に刃物のような物があることに気付き、それからそのポケットに手を入れて折り畳みナイフおよび薬物を押収したのであり、不審物に気付いてから身体検査を行ったのではないため、警察の法執行の手続きが上記の規定に適合しないことは明白である」というものです。また、裁判官は、本件の折り畳みナイフおよび薬物は全て警察が違法捜査の手段で入手したものであるため、この男性を逮捕できないだけでなく、当該折り畳みナイフおよび薬物も犯罪を認定する証拠とすることはできない、との考えを示しました。
台湾の警察が本件のような方法で被疑者の身体から刃物、薬物を入手するのは実務上よくあることですが、本件の男性のように果敢に裁判所に即刻異議を申し立てるケースは少ないです。よって、一般市民は、自身が違法捜査、不当逮捕をされたと思った場合、直ちに裁判所に異議を申し立てるか、または刑事事件に強い経験豊富な弁護士に相談すべきです。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
台湾弁護士 蘇 逸修
国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。