第411回 台湾への帰化

 2021年末、台湾の社会人野球チーム「安永鮮物」でプレーする日本人ピッチャーの高塩将樹選手が、アジア野球選手権大会の台湾代表候補に選ばれたというニュースがありました。高塩選手は現在、台湾籍を有していませんが、帰化申請中です。SNS等では、高塩選手が日本国籍を放棄するという誤った記載が散見されます。しかし現在、日本人が台湾に帰化しても日本国籍を喪失しません。そこで関係する規定を紹介させていただきます。

台湾での帰化申請の原則

 台湾の国籍法第9条第1項によると、外国人が帰化申請する場合、原則として、帰化が許可された日から1年以内に、原有国籍喪失証明書を提出する必要があります。そして同条第2項によると、当該期限内に証明書を提出しない場合、原国籍国の法律や行政手続上の制限があり期限内に提出できない場合を除き、帰化の許可が取り消されます。これらの原則的な規定があるため、高塩選手も日本国籍を離脱するとの誤解が生じているものと推測します。
 しかし、同条第4項には、帰化申請者が原国籍喪失に関する証明書を提出する必要がないとされる例外的な場合が規定されており、その1つとして、「当事者の責めに帰すことができない事由により、原有国籍喪失証明書を取得できない」場合(同項第3号)があります。

日本国籍から離脱できない

 日本において、台湾国籍を取得したことを理由に、日本の国籍法第13条第1項に基づき、日本国籍離脱の届け出を行った場合、日本政府は1つの中国政策により台湾を国家と見なしていないため、不受理処分が下されます。このため、台湾への帰化申請をした日本人は、日本国籍を離脱できず、日本国籍喪失に関する証明書を取得できません。その代わりに「国籍喪失届不受理証明書」が発行され、中国語に翻訳の上、台北駐日経済文化代表処の認証を受けることで、「当事者の責めに帰すことができない事由により、原有国籍喪失証明書を取得できない」ことを証明できます。

 以上のように、日本人が台湾国籍を取得しても、日本国籍を離脱できません。二重国籍になった場合、相続の際などに当事者の「本国法」をいずれの国の法律とするか(台湾法では、最も密接な関係を有する国籍を「本国法」とする旨の規定があります)というような問題が発生することがあります。このため、日本人が台湾に帰化する場合、このような問題などを事前に考慮すべきであると考えます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。