第450回 台湾刑法の傷害罪

美容院の美容師が客の女性にパーマをあてる際に、過失により頭皮や顔にやけどを負わせ、過失重傷害罪の成否が問題となった事案について、2022年10月20日、台湾高等法院高雄分院(高雄高等裁判所)は、同事案の傷害の程度は、刑法第10条第4項第6号の「その他、身体または健康に、重大で不治もしくは難治の傷害がある場合」に至っておらず、美容師には過失傷害罪が成立すると判断いたしました。

日本の刑法では、傷害罪および過失傷害罪について、傷害の程度、傷害の相手、傷害時の状況などで罪名を区別せず、このような事情は量刑の段階で考慮されますが、台湾では罪名自体が異なります。

以下では、台湾の傷害罪について、ご紹介いたします。

一般的な傷害

まず、一般的な傷害罪(刑法第277条第1項)です。同罪の刑罰は、5年以下の有期懲役、拘留または50万台湾元(約230万円)以下の罰金です。

また、台湾には重傷害罪(刑法第278条第1項)という罪が存在します。同罪の刑罰は5年以上12年以下の有期懲役です。

両者は傷害の程度で区別されており、重傷害罪が成立するのは以下の場合です(刑法第10条第4項)。

1.片目または両目の視力を毀敗または厳重に減損した場合

2.片耳または両耳の聴力を毀敗または厳重に減損した場合

3.言語能力、味覚、嗅覚を毀敗または厳重に減損した場合

4.一肢以上の機能を毀敗または厳重に減損した場合

5.生殖機能を毀敗または厳重に減損した場合

6.その他、身体または健康に、重大で不治もしくは難治の傷害がある場合

義憤による傷害

また、その場で義憤に駆られて上記2つの罪のいずれかを犯した場合には、義憤傷害罪(刑法第279条)が成立します。

この罪は、相手方が道義に外れたことや不公正なことをし、それに対して憤って傷害を加えた場合に成立しますが、上記2つの罪と比べて刑罰が軽く、同罪の刑罰は2年以下の有期懲役、拘留または20万元以下の罰金とされています。

尊属に対する傷害

この他、台湾には、直系尊属に対し、傷害罪または重傷害罪を犯した場合に成立する尊属傷害罪(刑法第280条)が存在します。

同罪が成立する場合、通常の傷害罪、重傷害罪より刑が2分の1まで加重されます。

なお、日本にも以前は尊属傷害致死罪という類型が存在しましたが、95年の刑法改正時に同罪は廃止されました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。