第452回 民事訴訟の弁護士費用は賠償請求できるか
台湾の裁判実務によりますと、民事訴訟制度では、第一、二審については弁護士を代理人として立てることが強制されていないため、明確な約定がない限り、当事者が支出する弁護士費用については、通常、損害賠償の請求範囲外とされています。
少数の例外的な状況として、当事者が自ら訴訟行為をすることができず、弁護士に委任して代理人となってもらう必要がある場合、はじめて必要な限度において敗訴した者が賠償することが認められます。
賠償が認められた事例
以前、ある野良猫保護団体が、当該団体と里親協議書を締結した里親が猫を引き取った後、虐待して死なせたと判断し、猫の価値の損失2万台湾元(約9万1000円)超、慰謝料50万元、弁護士費用20万元を請求する民事賠償訴訟を里親に提起したことがありました。
裁判所は、里親は他人の権利を意図的に不法に侵害したため、損害賠償責任を負うべきであると判断しましたが、野良猫の品種が不明であること等の状況を斟酌し、価値の損失の部分については1万元のみ賠償を認定しました。さらに、原告は法人であり、精神的苦痛と言えるものがないとして、慰謝料の賠償請求は棄却しました。
しかしながら、双方の協議書では「敗訴した当事者または過失があった当事者は、他方の当事者の弁護士費用を含む一切の損失の賠償を負担しなければならない」ことを約定しており、また、原告が弁護士費用を証明する弁護士に対する委任契約を提出したため、弁護士費用20万元の賠償を認定しました。
約定の重要性
上記の事例を例にとると、総賠償額21万元のうち弁護士費用は20万元です。当初の協議書で弁護士費用の賠償について約定していなければ、賠償を請求できた金額は1万元のみであり、弁護士費用を差し引いた費用は19万元を超えます。
従いまして、取引の内容の性質によっては、弁護士費用の賠償について約定しておくことが相当重要なこととなる場合もあります。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。