第455回 高額の株式処分は株主総会の決議が必要か?

台湾の全家便利商店(台湾ファミリーマート)は、もともと主に日本のファミリーマートと現地企業の泰山企業が合弁により経営しています。ところが、泰山では経営権をめぐる争いにより、今月初め、現在の多数派株主(以下「会社派」という)が、集中取引市場から株式を購入し、会社の経営権の取得を目指す者(以下「市場派」という)に対抗するために、ドル箱である台湾ファミリーマートの大量の株式を売却しました。

このような株式の大量売却は、「会社の全部または主要部分の営業または財産の譲渡」に該当する場合、会社法第185条第1項第2号(以下「本規定」という)により、株主総会の特別決議が必要となるため、会社派と市場派の間で本規定を巡って争いが生じました。

市場派は、泰山が売却した台湾ファミリーマートの株式の価値は、泰山の資本額の約2倍であり、大量売却した株式は本規定の「会社の主要部分の財産」に該当するため、これを売却するには取締役会の決議だけでなく、株主総会の特別決議が必要であると考え、関係者への責任追及などのため、訴訟を提起する予定です。

これに対し、会社派は、台湾ファミリーマートは泰山の長期投資の対象であり、その株式の売却は会社の本業の経営に全く影響せず、本規定は適用されないと考えています。

「主要部分」の定義

本規定における「主要部分」の定義について明文規定がないため、主管機関である経済部も、「主要部分」の認定について、「当該各社の営業およびその経営の性質によるべきであり、概括的に説明することは難しく、たとえ会社が定款において特定の財産が同規定の主要部分の財産に該当すると定めたとしても、当該特定財産を譲渡する際に本規定を適用するか否かについては、依然として各会社の営業およびその経営の性質をみて決定するべきである」と説明しています。裁判例においても、事案によって判断方法が異なり、統一されていません。

台湾では、「本規定の主要部分とはなにか」、「会社が投資目的で有する高額の株式を処分する場合、株主総会で決議を行う必要があるか」などの問題について、明確な判断基準がないため、裁判実務において、衆目を集める本件株式処分事案を通じて明確な判断基準が示されることが待たれます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。