第467回 董事長解任の議決を董事長は回避すべきか?
台湾の公司法(会社法)第206条第2項は「董事は会議の事項について、個人的な利害関係を有する場合、その回の董事会においてその個人的な利害関係の重要な内容を説明しなければならない」と定めていますが、利害関係を有する董事は議決を回避しなければならないということについては明文で規定していません。同法第178条では「株主は会議の事項について、個人的な利害関係を有し、会社の利益を害する恐れがある場合、議決に参加することができず、他の株主を代理してその議決権を行使することもできない」と定めています。
もし、董事会における董事長の解任に関する議案である場合、董事長自身は議決に参加することや他の董事を代理することはできるのでしょうか?
以前は法律に明文がなく、さまざまな見解が存在していましたが、近年、最高裁判所の2019年度台上字第720号決定によって、解任された董事は議案の議決に参加することができ、回避を要しないということが認定されました。
個人的な利害関係なし
当該事件の被告は董事長で、原告はほかの董事でした。原告は「被告は董事長解任議案において利害関係を有しており、そもそも議決に参加することはできず、他の董事を代理して議決権を行使することもできない。被告はこともあろうに自ら回避しないばかりか、他の董事をも代理して議決権を行使した。そのため、当該解任案は不承認4票、承認3票をもって可決されなかったが、当該4枚の不承認票については被告自身の1票および被告が代理した1票を控除すべきであり、不承認票は合計2票のみ、解任を承認したのは3票なので、被告は解任されるべきだ」と主張しました。
しかしながら、裁判所は「本件董事長の解任は、単なる会社内部の組織構造の見直しに関する議案にすぎず、会社と他人との間の外部の行為には関係しておらず、前述の公司法の定める『個人的な利害関係を有し、会社の利益を害する恐れがある』の範囲に属することではない。また、董事長の選任に際して、選任される者が議決に参加してはならないことが要求されていない以上、董事長の解任に際しても、当該董事長は議決に参加することや代理することができると認定すべきである。このため、原告の主張には理由がない」と判断しました。
以上をまとめると、現在の裁判所の実務的見解では、単なる会社内部の組織構造の見直しに関する議案にすぎない場合には「個人的な利害関係を有し、会社の利益を害するおそれがあり、議決を回避しなければならない」との規定は適用されないものと考えられています。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。