第484回 裁判員制度、初めての判決
国民裁判員が参加した裁判の台湾司法史上初めての刑事判決が2023年7月21日に出ました。
本件の概要は次のとおりです。
被告人は63歳の女性で、72歳の夫からの長期にわたる家庭内暴力に耐えきれず、22年11月、夫が酒を飲んで熟睡している間に夫を殺害しました。台湾新北地方法院(地方裁判所)は7月18日から本件の審理を開始しました。
裁判に参加した者には裁判官3名、国民裁判員6名および予備の裁判員4名が含まれていました。3日連続で審理が行われ、裁判長が7月21日に、被告人は殺人既遂罪に該当すると認定し、7年2月の有期懲役に処すると言い渡しました。
台湾の国民裁判員制度(いわゆる裁判員制度)は23年1月1日から正式に施行されました。満23歳以上で地方裁判所の管轄区域内に4カ月以上連続して居住する中華民国国民から、無作為抽選で、国民裁判員6名および予備の裁判官4名を選出し、3名の裁判官と合議廷を構成し、主刑が最も軽くても10年以上の有期懲役となる重罪事件を共同で審理します。
本制度の主な目的は、様々なバックグラウンドを持つ国民を裁判に参加させることにより、司法制度に対する一般の人々の参加度や信頼度を高めることにあります。
従来とほぼ同じ量刑に
本件の審理の際、国民裁判員が被告人に「夫の命を終わらせたことを後悔していますか?」と質問したところ、被告人は「その時は興奮していて夫の命を終わらせたいと思いましたが、時が戻るなら、夫のことを我慢し続けていたはずです。夫はかなり年を取っていましたから」と述べました。
被告人の娘は証人として出頭し、「私にはもう父親がおらず、母親を失うことはできません。殺人は法律の制裁を受けなければなりませんが、母が残りの人生を自分を大切にしながら生きられるよう、減刑を裁判官に懇請します」と述べました。
最終的に、国民裁判員の評決の結果、被告人は7年2月の有期懲役に処されました。一般的に、この刑の重さは裁判官が判決した従来の刑の重さとほとんど同じであると考えられます。本件における犯罪の証拠が十分で、被告も自己の殺人行為を認めたため、審理過程は円滑でした。
もっとも、実務では、証拠が不十分で、被告も罪を認めないという刑事事件が多く、この場合、裁判官と国民裁判員との間で互いの見解をどのようにすり合わせていくかということにおいて、難しい問題に直面するかもしれません。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。