第491回 言論の自由の境界線はどこか
ある人のことを公に評論したいが、その人が法的手段を取り、公然侮辱罪もしくは誹謗罪の告訴、または名誉が傷つけられたことに対する賠償請求を行うことが心配な場合、言論の境界線をどのように捉えるべきでしょうか。
基本的権利の対立
台湾では、「名誉」と「言論の自由」はいずれも憲法で保障されている基本的権利であり、両者に対立が生じる場合、行為者の刑事責任については、現行の調整メカニズムは大法官釋字第509号解釋で創設された「合理的な調査確認義務」、および刑法における「真実の場合は罰しない」、「合理的な評論は罰しない」についての規定を拠り所としています。
民事責任については、民法上の不法行為の原則および上記の「合理的な調査確認義務」のほか、裁判実務では、上記の刑法の規定も類推適用できると考えられています。
発言する前の注意点
言論には「事実の陳述」と「意見の表明」が含まれ、前者には真実か否かという問題が存在し、行為者は少なくとも、先に合理的な調査確認を行って、言論の内容が事実と相違することにより他者の社会的評価が低下されることがないようにしなければなりません。
後者は行為者が自分の見解や立場を示すことであり、主観的な価値判断の範疇に属し、行為者は、公に評論されうる事柄に対して極度に過激なまたは人格を貶める言葉を用いずに意見を表明したのであれば、権利侵害に該当しません。
以上をまとめると、簡単に言えば、言論の自由の境界線とは、①根拠があること、②極度に過激なまたは人格を貶める言葉を使用しないことになります。
ただし、調査確認の義務は公益性、資料の出所の信頼性、評論の時効性および調査確認の期間・費用コストなどによって個別事案ごとに変動します。どのような言葉が「極度に過激な」または「人格を貶める」ものと認定されるのかも、そのときの時空背景の影響を受けます。
よって、懸念される場合には、述べようとする言論内容を現地の法律専門家にチェックしてもらい、民事・刑事上の責任を負うリスクを低減することが望ましいです。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。