第505回 台湾法上の過失犯

台湾高等法院高雄分院(台湾高等裁判所高雄支所)は2023年12月27日、ある過失致死事件について2023年度再字第3号刑事判決を下しました。

マイクロバスと自転車が衝突

本件の概要は次のとおりです。

被告の林氏が20年12月10日午前、マイクロバスを運転し高雄市内の制限速度、時速50キロメートルの道路を時速54キロで走行していた際、自転車を運転していた黄氏が急に左に寄り、林氏のいる車線に進入しました。その結果、マイクロバスと自転車が衝突し、その後、黄氏は重傷のため死亡しました。

高雄地方検察署は、林氏には制限速度を超えて運転した過失があると判断し、台湾刑法第276条の過失致死罪により林氏を起訴しました。高等裁判所は有期懲役の判決を下し、5月に判決が確定しました。

林氏はこれを不服として再審を請求し、台湾高等裁判所高雄支所は審理後、23年12月27日に逆転の無罪判決を下しました。裁判官は本判決書において刑法上の過失犯の認定基準を詳述しており、当該基準には以下の内容が含まれています。

過失犯の基準

1. 過失責任の有無では、行為者が注意義務に違反したか否か、結果の発生を予見することができたか否か、および、行為者が最大限の注意義務を果たしていれば結果の発生を回避することができたのか否かを見極めなければならない。

言い換えれば、結果の発生を行為者が予見できない、または行為者が最善の努力を尽くしたとしても結果の発生を免れないのであれば、行為者を非難することはできない。

2. 法律ではマイクロバス運転者に注意義務を課しているが、その目的は、衝突が発生して人身・車両の安全に危害を及ぼすのを回避するためである。このため、運転者が衝突の結果に対し予見可能性および回避可能性を有する状況では、運転者に注意義務が課されている。

これに対し、危険の発生が他人によりもたらされ、運転者がその危険の過程およびそれによる結果を客観的に予見できない、または回避できない場合には、運転者が過失責任を負うとはし難い。

3. 本件では、黄氏はもともと低速走行車線に沿って自転車を運転していたが、初めから左側に寄っており、衝突発生時まで一向に左側の車線を振り返って見ることがなかった。また計算では、林氏のマイクロバスが制限速度で運転走行していたとしても、衝突する前にブレーキで車両を停止させることはできなかったことが示されている。

よって、黄氏が急に左側へと車線変更した行為が本件事故発生の主因であり、林氏には事件を引き起こした要素はない。

台湾では、運転者が交通規則に違反(本件の制限速度超過)していれば、事故が発生したとき、被害者のほうが過失の程度が高かったとしても(本件の黄氏)、当該運転者に無罪の判決が下されることはほぼあり得ません。

まして、本件は当初有罪判決が確定した後の再審手続きにおいて逆転判決を獲得しており、これは台湾では非常に珍しいことと言えます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。