第523回 行政訴訟手続における調停

2023年8月に行政訴訟法に調停制度が加えられてから、24年5月27日に行政訴訟の上訴事件において、初の調停が成立しました(2023年度上字第406号総合所得税事件)。

本件の概要は次のとおりです。

某建設会社の董事長が土地に投資して利益を得た後、国税局に税金の申告漏れと認定され、このため当該董事長に対し追徴課税および過料処分計1400万台湾元(約6900万円)が課されました。当該董事長は国税局を被告として行政訴訟を提起し、もとの処分の取消を主張しましたが、高等行政法院(高等行政裁判所)で審理された第一審で敗訴しました。

その後、当該董事長は続けて第二審の最高行政法院(最高行政裁判所)に上訴し、双方は第二審で法律上の激しい攻防を繰り広げました。

これまで、行政訴訟には民事訴訟の調停のような制度が欠けていたため、行政裁判所は、開廷審理・判決という方法によって政府と国民間の紛争を処理するしかなく、事件処理の効率は低くなっており、最終的な結果の如何を問わず、敗訴した側はみな不満を抱く状況となっていました。

調停制度の導入

紛争事件の処理の効率を高め、事件の審理における裁判官の負担を減らすために、23年8月、行政訴訟法に調停制度が加えられました。

この新しい制度では、「当事者が紛争の対象について処分権を有しており、かつ、調停が公共の利益に害をなすことがなければ、行政裁判所は訴訟係属中に、当事者の合意により事件を調停に移送することができます。また、必要に応じて紛争の対象以外の事項についても併せて調停することができ、第三者を調停に参加させることもできる」ということが定められました。

本件において、裁判官が提案した調停案は「過料を本来の0.5倍から0.27倍に引き下げる(過料の200万元の減少に相当)」というものであり、この案は上訴人(董事長)と被上訴人(国税局)に承諾され、双方は24年5月27日に和解し、調停が成立しました。これは、行政訴訟の上訴事件における調停の最初の成功事例となりました。

最高行政裁判所は、行政訴訟手続において調停制度を活用すれば、紛争解決の加速化に資することとなり、また、当事者双方にウィンウィンの効果をもたらすことができると述べました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。