第525回 消防・警察人員試験の身長制

消防・警察人員試験の体格検査において、女性が身長160センチメートル未満の場合は不合格とする旨を規定する公務人員特種試験一般警察人員試験規則第8条第1号(以下、「本件規定」といいます。)の合憲性について、2024年5月31日に憲法法廷が判決を下しました。

事案の概要は以下のとおりです。

違憲判決

2018年の消防警察四等試験を受験した女性のAさんは同試験に合格しました。翌年に消防署訓練センターで訓練を受ける際に再検査を行ったところ、身長が158.9センチと測定され、本件規定の基準を満たさないため、Aさんは訓練を受ける資格を取り消されました。

Aさんは、不服申し立て、行政訴訟の提起を行いましたがいずれも棄却されたため、憲法解釈を申請しました。

憲法法廷は、主に以下の理由から、本件規定は、平等権を規定した憲法第7条に反するため、判決日から1年でその効力を失うと判断しました。

1. 本件規定は男性と女性の平均身長の差異を考慮しているが、男性の身長制限は165センチであり、男性の平均身長と7センチもの差があり、10%の男性を排除するのみであるのに対し、女性の身長制限は、女性の平均身長より0.5センチ高い160センチとされており、55%の女性を排除する。

2. 消防の仕事は相当程度多元的であり、様々なタイプの消防任務および災害現場、救助活動に直面するが、身長が低い消防士は一般的な消防任務を担当できるだけでなく、比較的狭いスペースの災害現場への立ち入りにも有利である。

日本の裁判例、見当たらず

日本でも徐々に減っているものの、一部の都道府県では警察官・消防官の試験で身長等の基準を設けているようです。

しかし、日本では「おおむね」何センチ以上と規定していることが多く、当該身長未満でも採用され得る表現であるためか、このような規定の合憲性を争う裁判例は見当たりませんでした。

本件規定について、日本のように「おおむね」と規定していた場合やその基準を155センチとしていた場合は、憲法法廷の判断が変わった可能性があると考えます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。