第526回 公共交通機関の優先席「博愛座」

今年6月中旬、台北都市交通システム(MRT)では「博愛座(日本の『優先席』に相当)」に起因して激しいつかみ合いのけんかが突発しました。

林という名字の25歳の女性が退勤後、台北MRTに乗車した際、疲れ切っていたため博愛座に座ったところ、同じ車両にいた高齢者2人に「若者が博愛座を占領すべきでない」と罵倒されました。女性は感情が高まり、相手とつかみ合いのけんかになり、自分で柱に頭をぶつけ、顔面が血まみれになったというものです。

このほかにも、台湾の社会では最近、「誰が博愛座を利用できるか」ということに関するトラブルが複数発生しており、多くの市民が台湾当局に「博愛座の取消」を求めています。

これに対し台北MRT運営会社の台北大衆捷運(TRTC)は、博愛座は法規に基づいて設置されたものであるため、法改正されるまでは廃止できないとの見解を示しています。

博愛座、15%の設置義務

台湾法における、博愛座に関する主な法規は以下のとおりです。

1. 障害者権益保障法第53条第3項には、「公共交通機関には、各種の障害者の行動や利用に便利なバリアフリー設施および設備を計画設置しなければならない。指定席を提供していない公共交通機関には障害者および高齢者・体の弱い者・女性・子供を優先的に座らせる博愛座を設置しなければならず、その割合は座席総数の15%を下回らないものとし、座席は車両の乗降扉、船室・客室の扉または出入口の付近に設置しなければならず、車両の乗降扉、船室・客室の扉または出入口までの床は平坦で障害のないものとし、必要に応じて、座席を譲るよう注意喚起する警告の表示または放送を行わなければならない」とあります。

2. 公共交通機関バリアフリー設施設置弁法(以下「本弁法」)第8条第3項には、「道路および市街区の旅客輸送用大型乗用車には、以下に掲げる規定に従い、乗客の大型乗用車の利用を助けるバリアフリー施設を設置しなければならない。三、博愛座:指定席を提供していない大型乗用車には行動に支障がある者を優先的に座らせる博愛座を設置しなければならず、また、座席から車両の乗降扉または出入口までの床は平坦で障害のないものでなければならない」とあります。

3. 本弁法第12条第2項には、「MRTの旅客車には、以下に掲げる規定に従い、乗客の旅客車の利用を助けるバリアフリー施設を設置しなければならない。二、博愛座:旅客車には行動に支障がある者を優先的に座らせる博愛座を設置しなければならず、また、目立つ位置に博愛座という文字を表示しなければならず、座席から車両の乗降扉までの床は平坦で障害のないものでなければならない」とあります。

よって、現行の台湾法では、優先的に博愛座に座ることができるのは、障害者や、高齢者・体の弱い者・女性・子供および行動に支障がある人だけです。

しかし、社会では博愛座に関する法規の改正を求める声がいよいよ高まってきていることから、主務官庁の衛生福利部(衛福部)は、「必要のある乗客」は皆、座ることができるよう、博愛座の利用対象者を拡大する法改正を推し進めることを表明しました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。