第527回 再生医療の適法化について

2024年6月、台湾では「再生医療法」と「再生医療製剤条例」が立法手続きを経て成立しました。これにより、再生医療技術の使用や管理に関する法的枠組みが整備され、再生医療分野の発展が一層促進されることが期待されています。

やけど事故がきっかけ

台湾における再生医療の立法推進は、15年6月に新北市八里区のレジャー施設、八仙水上楽園(フォルモサ・ウオーターパーク)で起きたカラーパウダーによる粉じん爆発事故「八仙水上楽園爆発事故」を契機に始まりました。

当時、日本の細胞治療技術の協力を得て、広範囲に熱傷を負った熱傷(やけど)患者の一部に自家培養の人工皮膚が使用され、驚異的な治療効果を上げました。この成功を受けて、台湾政府は再生医療の発展を強く意識するようになり、数年にわたる立法手続きを経て、ようやく再生医療関連法が成立しました。

日本などの法律参考に制定

今回制定された「再生医療法」と「再生医療製剤条例」は、それぞれ衛生福利部(衛福部)の医事司と食品薬物管理署(食薬署、TFDA)が主管しています。

「再生医療法」は、医療機関での再生医療技術や製剤の使用に関する安全性・品質・有効性の確保、および臨床応用や人体試験、研究、細胞の出所管理などについて規定しています。

「再生医療製剤条例」は、再生医療製剤の審査・登録、条件付き許可、製造・販売、製造販売開始後の管理、薬害救済などを規定しています。

これらの法律は、日本を含む諸外国の法律を参考にして制定されたものであり、その特徴を以下のとおり紹介します。

まず、細胞の出所についてですが、原則として、意思能力のある成年者が書面による同意をした上で細胞の提供が可能となります。また、同種細胞(他人の細胞)を用いる療法については、明文で制限していませんが、人体試験の完了および当局の許可取得の必要があります。

コンパッショネート・ユース(生命に関わる疾患を有する患者に対し、国内に適切な医薬品、医療機器、医療技術がない場合、例外的に未承認技術や薬の人道的使用を認める制度)については、人体試験の免除が可能ですが、異種細胞の使用は明文で禁止されています。

さらに、胚または胚性幹細胞に関連する再生医療の研究は許可されていますが、以下の方法で使用することは禁じられています。

1. 人工受精により胚を作製すること

2. ハイブリッドを作製すること

3. 他種の核をヒト除核卵細胞に移植すること

4. 生殖研究用の胚

5. ヒトまたは他種の子宮に研究用の胚を移植すること

6. ヒト生殖細胞を使用したキメラ種を作製しまたは増殖させること

7. 中央政府の主管当局によって禁止を公告されているそのほかの材料または研究方法

再生医療は、科学技術の進展とともに、医療の未来を大きく変える可能性を秘めています。台湾における新たな再生医療法の成立は、この分野の発展にとって重要な一歩であり、日本の再生医療技術の台湾進出も視野に入れた取り組みが進められることが期待されています。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。