第529回 公務員の収賄罪

2024年7月11日、前桃園市長、鄭文燦氏が汚職事件の疑いで、桃園地方法院(地裁)から勾留決定を受け、弁護士、家族らとの接見を禁止されました。鄭氏は与党・民進党の中で人気の高い政治スターであるため、本件は台湾社会に大きな衝撃を与えました。

メディアの報道によりますと、鄭氏は桃園市長在任中にある土地の再計画プロジェクトに関して500万台湾元(約2400万円)の賄賂を受け取った疑いがあり、桃園地方検察署(地検)の検察官が、まず24年7月6日に鄭氏が汚職処罰条例(以下「本法」)第5条第1項第3号の「職務に違反しない収賄罪」を犯しており、証人との結託/証拠隠滅のおそれがあることを理由に、桃園地裁に勾留を請求しましたが、裁判所に却下され、500万元の保釈金を納付することで保釈される旨が鄭氏に告げられました。

検察官は不服とし抗告をしましたが、9日に再び裁判所に棄却され、1200万元の保釈金を納付することで保釈される旨が鄭氏に告げられました。

しかしながら、検察官は諦めず、引き続き抗告し、ついに裁判官に認められ、11日に鄭氏の勾留と弁護士、家族らとの接見禁止が決定されました。

「職務に違反しない収賄罪」

台湾法上の「公務員による収賄罪」は本法第4条第1項第5号(次に掲げる行為のいずれかに該当する場合、無期懲役または10年以上の有期懲役に処するものとし、1億元以下の科料を併科することができる。五、職務に違反する行為について、賄賂またはその他の不正の利益を要求し、約束しまたは収受した場合)および第5条第1項第3号(次に掲げる行為のいずれかに該当する場合、7年以上の有期懲役に処するものとし、6000万元以下の科料を併科することができる。三、職務上の行為について、賄賂またはその他の不正の利益を要求し、約束しまたは収受した場合)に規定されており、前者は「職務に違反する収賄罪」といい、後者は「職務に違反しない収賄罪」といい、鄭氏が犯罪の疑いをかけられているのは後者です。

公務員による収賄罪の主な成立要件には、「1、公務員に金銭などの財物を収受した事実があること。2、公務員に職務に違反する(または違反しない)行為があること。3、前記1、2の間に『交換条件』の対価関係があること」があります。

3を証明する難易度は高いため、実務において、起訴された収賄事件が最終的に無罪判決を受けるケースは少なくありません。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。