第532回 株式譲渡の方式

台湾高等法院(高等裁判所)は、2024年7月23日、24年度重上字第138号判決において、株券不発行会社の株式について譲渡を行う場合には、譲渡人と譲受人間の申込と承諾の意思表示の合致がありさえすれば、持分譲渡の効力が生じる、と判示しました。

申込と承諾と意思表示があるか

本件の概要は次のとおりです。

甲は、以前、乙某が建築プロジェクトの建築許可を取得することに協力し、その協力の代価として、甲乙双方は19年6月に「持分譲渡同意書」を締結し、乙がその保有する建設会社丙の株式50万株を甲に譲渡すること、また、乙は丙社から獲得した株式の配当、特別配当を甲に渡さなければならないことを双方において約定しました。

しかしながら、乙丙がいつまでたっても丙の株主名簿に甲を登記せず、乙が株式の配当、特別配当を甲に渡さないため、甲は乙丙を被告とし、「甲の丙に対する株主権の存在」、「丙は甲を丙の株主名簿に記載しなければならない」こと等について、確認請求訴訟を提起しました。

台湾高等裁判所は、審理後、次のとおり判断を下しました。

一、株券不発行会社の株式について譲渡を行う場合、法律上、譲渡方式の制限はないうえ、裏書または交付することが可能な実体としての株券は実際には存在しないため、このような株式譲渡の成立要件は、譲渡人(記名株主)と譲受人間の申込、承諾の意思表示の合致がありさえすれば、持分変動の効力が生じる。

したがって、本件では、甲乙が2019年6月に「持分譲渡同意書」を締結した時に、丙社の株式譲渡の効力は既に生じていたということになる。

二、甲が丙社の株主として、会社法第165条第1項、第169条第1項第1号の規定に基づいて株主権を行使し、甲を丙の株主名簿に記載するよう丙社に求めたことにも根拠がある。

会社法164条は「株券は株券所持人が裏書をすることをもってこれを譲渡し、また、譲受人の氏名または名称を株券に記載しなければならない。」と定めています。

この規定は、会社が株券を発行している場合には、上記の譲渡方式を満足してはじめて持分譲渡の効力が生じる、というものです。他方で、会社が株券を発行していない場合には、本判決の説明のとおり、譲渡人と譲受人間の申込と承諾の意思表示の合致(例えば、持分譲渡契約が締結された場合)がありさえすれば、持分譲渡の効力が生じるということになりますので、特にご注意ください。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。