第534回 有期懲役刑の上限

元南投県長の李朝卿氏が台風で被害が出た道路の工事など111件の公共工事において数千万台湾元(1元=約4.55円)の賄賂を受け取っていた事件(以下「本件事例」)について、2024年8月12日、最高裁判所は、111件について有罪であると判断しました。そのすべての罪の刑期を単純に合計すると400年を超えます。

また、12年には、有名モデルら数十名に睡眠薬を飲ませるなどして性的暴行を加えていた李宗瑞氏の刑事裁判において、検察が懲役209年を求刑したことが話題になりました。

今回は、台湾における有期懲役刑の刑期の上限についてご紹介いたします。

上限は30年

台湾の刑法第50条第1項では、「裁判の確定前に数個の罪を犯した場合、これを併合して処罰する。」旨が規定されています。

そして、同法第51条第5号では、「複数の有期懲役刑が宣告された場合、各刑のうち最長の刑期以上、各刑の合計の刑期以下で、その刑期を定める。但し、30年を超えてはならない。」旨が規定されています。

このように、台湾の有期懲役刑には刑期の上限が設定されています。

本件事例において、元南投県長は多数の罪を犯しており、それぞれの罪について有期懲役刑が宣告されましたが、実際の刑期は30年となります。

なお、合計400年を超える有期懲役刑を宣告するのであれば、無期懲役刑を科せばよいのではないかとも考えられますが、本件事例の各犯罪(収賄罪)には無期懲役刑という刑罰が定められていないため、有期懲役刑の合計が相当長期になる場合でも無期懲役刑を科すことはできません。

外国の刑事裁判に関するニュースでは、数百年(場合によっては1万年)以上の有期懲役刑を科す判決が下されたと報道されることがあり、有期懲役刑の上限が設けられていない国では、実際に当該刑が科されていると思われます。

しかし、台湾では、日本と同様に有期懲役刑の上限が30年とされているため、刑事裁判に関するニュースで報道されるような数百年の有期懲役刑が実際に科されることはありません。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。