第538回 10元のトイレットペーパーを窃盗、刑の免除判決

ある21歳の男子大学生が、10台湾元(約45円)のトイレットペーパーを盗んだ後、最終的に裁判所から刑の免除判決を獲得したという特殊な刑事事件が最近、台湾で発生しました。

裁判官がテレビドラマの中のセリフを判決書に引用したため、世間の熱い議論を巻き起こしました。

突然の便意で

本件の概要は次のとおりです。2024年4月、21歳の陳という男子大学生が突然便意に襲われたため、雲林県のあるコンビニエンスストアで1パック10元のトイレットペーパーを盗みました。店員が通報した後、警察がモニターの画面で大学生の犯行を確認しました。被害者が大学生の刑事責任を追及することをあくまで主張したため、雲林地検署の検察官は陳を窃盗罪で起訴しました。

本件は雲林地方裁判所により審理された結果、今年9月9日に刑の免除判決が下されました。判決書では次のことが指摘されています。

弱者を配慮

一、被告人は胃腸疾患を患っており、差し迫った生理的欲求のため、一時的に理性を失い、価値の低いトイレットペーパーを手に取ってしまった。

二、病院の診断証明書には、被告が複数の疾患(知的障害、不安障害および糖尿病などを含む)を同時に抱えていることが示されており、また、現在、大学で勉強しているが、その学習および生活能力はなお強化する必要がある。

三、被告人は初犯で、しかも犯行の情状が軽微であり、この司法手続を経て、深く反省したはずである。刑罰をさらに重くすれば、被告人およびその家族に大きすぎる圧力をもたらす恐れがある。これは刑罰的正義の実現のためにならないだけでなく、逆に当事者に犯罪者という烙印(らくいん)を残す可能性がある。

最後に、本件の裁判官は、テレビドラマ「八尺門的弁護人(八尺門の弁護人、2023年)」における「人はどれだけ幸運であれば、皆さんのようにこの心地よい位置に座り、この世界は十分に優しい思えるでしょうか。わたしたちは罪人に対して残酷なことをする絶対的権力を持っています」という、弱者である被告人のために声を上げた弁護人の法廷でのセリフを引用し、大学生に刑の免除を言い渡しました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。