第541回 死刑の存廃について

長い間論争が行われている死刑の存廃の問題について、憲法法廷は、2024年9月20日に2024年憲判字第8号判決を下し、台湾法における死刑は「条件付きで合憲」であると認定しました。

本件の概要は次のとおりです。

殺人罪(刑法第271条第1項)、強制性交殺人罪(刑法第226条の1)、強盗殺人罪(刑法332条第1項)、身代金目的誘拐殺人罪(刑法第348条第1項)を犯したため死刑判決を下された37人の被告人が、台湾法における死刑は憲法が保障する平等権、生存権などに違反しておりかつ比例原則に反しているとして、24年1月に共同で憲法審査を申し立てました。

憲法法廷は審理を経て、同年9月20日に2024年憲判字第8号判決を下し、現行法における死刑は合憲であるが、下記の8つの条件を同時に満たしていなければ、死刑判決を下すまたは死刑を執行することはできないと認定しました。

一、犯罪の情状が最も重大なもののみに適用し、かつ、当該事件の刑事手続は、憲法上の最も厳密な法定の適正手続に合致しなければならない。

二、検察官、警察などが人民に犯罪の容疑があると判断した場合に、人民が出頭して尋問を受ける際には、弁護人の立会いがなければならず、かつ弁護人が当該人民のために意見を陳述できるようにしなければならない。

三、第三審の裁判を行う時に、強制弁護制度を適用しなければならない。

四、第三審の裁判を行う時に、口頭弁論を実施しなければならない。

五、各級の裁判所の裁判官が、同じ判決を下さなければならない(つまり、第一審から第三審までの十数名の裁判官のうち、死刑判決を出したくない者が一人でもいた場合、ほかの裁判官が全員死刑判決を下したとしても、死刑判決を執行することはできない)。

六、行為時に被告人に精神障害の状況があった場合、死刑判決を下してはならない。

七、裁判を受ける時に被告人に精神障害の状況があるために、その訴訟における自己弁護の能力が明らかに不足している場合には、死刑判決を下してはならない。

八、死刑判決を言い渡されたとしても、被告人に精神障害の状況があるためにその刑罰を受ける能力が欠けている場合には、やはり死刑を執行してはならない。

「実質的な死刑廃止」

この判決が公表された後、台湾の社会で非常に大きな論争を呼びました。多くのメディアは、形式的には死刑を廃止していないが、上記の8つの条件を満たすことはほぼ不可能であるため、台湾では「実質的な死刑廃止」となったも同然だと批判しました。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。