第550回 ワクチン被害者の法的権利

林という女性がワクチンを接種した後に副反応が現れたため、衛生福利部(以下「衛福部」)にワクチン救済を申請したものの、認定されなかったことから、衛福部と3年に及ぶ法的訴訟を繰り広げました。最終的に、最高行政裁判所が2024年10月30日に林氏勝訴の判決を下し、台湾の司法界を震撼させました。

■総合的判断を

本件の概要は次のとおりです。

林氏が15年に「2価HPVワクチン(サーバリックス)」を接種した後、くるぶし、ひざの痛み、手首の腫れ・痛み、跛行(はこう、片足を引きずるように歩くこと)などの副反応が次々と現れ、病院に「若年性関節リウマチ」と診断されました。そこで、林氏は19年5月に、伝染病予防対策法第30条第1項(予防接種により被害が生じた場合、救済補償を請求することができる)に基づき、予防接種被害救済を衛福部に申請しました。ところが、衛福部は、林氏の病症はワクチン接種と無関係であると判断したため、救済しないことを決定しました。

林氏は不服を申し立てて棄却された後、さらに行政訴訟を提起し、台北高等行政裁判所がまず22年10月の第一審判決で林氏に有利な判決を下し、衛福部がこれを不服として控訴を申し立てた後、最高行政裁判所が二年間の審理を経て、24年10月30日に判決を下し、「予防接種と個々の事案における被害の状況との関係性の判断においては、個体群をベースとする医学的実証に依拠するだけでなく、個々の事案における被害の状況および関係するあらゆる要素をも総合的に斟酌しなければならない。つまり、衛福部の主張する、欧米人種の場合の疫学における発生率だけに基づいて個々の事案の状況を推論することはできない」と判断しました。

このため、最高行政裁判所は衛福部に対し、審査会議をあらためて招集し、ワクチン接種と副反応の関連性をあらためて鑑定した後、林氏に救済を行うか否かおよび救済金額を決議するよう要求しました。

医薬紛争については、高度な医学専門性に関わるため、一般市民が行政訴訟において政府機関に勝つという案件はかなり少ないです。本判決が出た後、ワクチン接種を受けて問題が起きた他の民衆が集団で主管機関に賠償を求めるという状況を引き起こす可能性があります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。