第554回 台湾外の企業と契約する際の安全性向上手段

日系企業の台湾現地法人と台湾外の企業との各種契約の際、例えば、台湾の現地法人がタイのサプライヤーとの間で台湾法を準拠法とする売買契約書を締結する際に、当該サプライヤーが契約において社印の押印をせず署名のみした場合、その契約は有効でしょうか。

 意思の合致があれば契約成立

台湾の民法上、当事者の意思が合致していれば、明示・黙示を問わず契約は成立するとされており、民事訴訟上、契約の当事者本人またはその代理人(会社の代表者を含むがこれに限らない)が契約書に署名することで、当該契約書は真正であることが推定されます。

よって、台湾の法律上、台湾の現地法人と台湾外の企業とが契約を締結する際、署名のみでも有効であると原則的に判断してもよいといえます。

取引の安全性を向上する手段

なお、信頼関係が不十分であるケース、または金額もしくは影響の大きな契約を初めての相手と締結するようなケースでは、契約に署名する予定の自然人が相手方の会社を代表する権限を確実に有していることを確認するため、相手方に次のような書類を提出してもらうことを検討できます。

また、これらの書類に、現地公証人による公証、所在国の外務省による認証、および台湾の大使館または在外代表機構(例えば、タイの場合、「駐泰国台北経済文化弁事処」というバンコクにある台湾外交部の組織)による認証が付されていれば、さらに信頼性が高まります。

1.最新の会社登記事項証明書(発行日、および代表権者が記載されたもの)

2.最新の定款(作成日、および代表権者が記載されたもの)

3.契約に署名する予定の自然人が相手方の会社を代表する権限を確実に有していることを証明できる株主総会または取締役会の授権に関する議事録、または会社が発行する委任状(作成日、および代表権限の内容が記載されたもの)

このような書類を確認することで、取引の安全性がより確保され、万が一訴訟が発生した場合には、これらの書類も証拠などとして活用できる可能性があると考えられます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。