第562回 株主からの財務情報開示要求

台湾のインフルエンサー「Andy老師」が2025年3月中旬に、「別れた後、自分には何もなくなった」というタイトルの動画をYouTubeにアップロードし、その元交際相手「家寧」と彼女の母親が手を組んで彼を騙したと告発しました。

この動画は、100人に上るYouTuberや台湾の主流メディアに拡散され、現時点で1000万回以上も閲覧されています。

■共同出資で会社設立

Andy老師の告発の要点は次のとおりです。

1. 彼と家寧は16年に「衆量級CROWD」というYouTubeチャンネルを共同で開設し、カップル間でいたずらをするさまざまな面白動画を二人で撮影し、徐々にフォロワーから人気を得るようになり、利益が出始めました。

2. 家寧の母親が18年に、YouTuber事業の企業化経営ができるよう「群海娯楽股份有限公司(株式会社)」の設立を提案し、かつ、同社の株式を家寧の母親が50%、Andy老師と家寧がそれぞれ25%取得し、さらに家寧の父親が同社の監査役を務めることを提案しました。

Andy老師は動画の主たる創作者および作成者でしたが、いずれは家寧が妻になると信じていたほか、当時24歳で社会経験が乏しかったことから、この不公平な条件を受け入れました。

3. 24年の時点で、「衆量級CROWD」のフォロワー数は200万人を超え、営業収入の累計額は1億台湾元(約4億5000万円)以上に達していましたが、Andy老師は同年10月に家寧と別れた後、突然当該チャンネルへのログイン権限を奪われ、全ての金銭収入を失いました。

彼はチャンネルへの貢献度が最も高いにもかかわらず、長年の間、月に3万元から5万元しか受け取っておらず、家寧やその母親に群海社の会計書類の提供を再三要求しても、毎回拒否されていました。

そこで、Andy老師は相手方に対し群海社の帳簿の提供を要求し、かつ、彼に帰属する25%の利益を支払うよう要求しました。

■株主の帳簿閲覧権

会社に対する株主の帳簿閲覧権について、台湾の会社法第210条では次のように定められています。

「(第1項)取締役会は、証券主管機関において別段の定めがある場合を除き、定款および各期の株主総会議事録、財務諸表を自社に備え置き、かつ株主名簿および社債原簿を自社または株式事務代行機関に備え置かなければならない。

(第2項)前項の定款および帳簿類について、株主および会社の債権者は、利害関係の証明書を提出し範囲を指定することで、いつでも閲覧、謄写または複製を請求することができる。株式事務代行機関に備え置いているものについては、会社は株式事務代行機関から提供させなければならない。

(第3項)会社を代表する取締役が第1項の定めに違反して定款、帳簿類を備え置かない場合、1万台湾元以上5万台湾元以下の過料に処する。但し、株式公開発行会社については、証券主管機関が、会社を代表する取締役に対し24万台湾元以上240万台湾元以下の過料に処する。

(第4項)会社を代表する取締役が第2項の定めに違反して正当な理由なく閲覧、謄写、複製を拒否し、または株式事務代行機関から提供させなかった場合は、1万台湾元以上5万台湾元以下の過料に処する。但し、株式公開発行会社については、証券主管機関が、会社を代表する取締役に対し24万台湾元以上240万台湾元以下の過料に処する。

(第5項)前2項の場合、主管機関または証券主管機関はさらに、期限を定めて是正を命じなければならない。期限を過ぎても是正しない場合は、引き続き期限を定めて是正を命じ、是正されるまで一回ごとに処罰を与える。」

従って、Andy老師は株主として、法律上、群海社の代表者(家寧の母親)に対し財務諸表の提供を要求し、かつ当該財務諸表の内容についてさらなるチェックを行う十分な権利を有します。

Andy老師と家寧の家族との間の本件紛争には、財務データ以外に、家寧の両親が会社の収益を無断で自分の個人口座に送金するといった税金逃れ、横領罪などの問題も存在するため、現在も台湾の社会の注目を集めています。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。