第567回 董事の忠実義務

会社法第23条第1項により、会社責任者は、業務を忠実に執行し、かつ善良な管理者の注意義務(以下、「忠実義務等」といいます)を果たさなければならず、これに違反して会社に損害を与えた場合、損害賠償責任を負わなければなりません。また、同条第2項により、会社責任者が会社の業務執行において法令に違反して他者に損害を与えた場合、他者に対し会社と連帯して賠償責任を負わなければなりません。なお、同法第8条第1項により、合同会社(中国語:有限公司)、および株式会社(中国語:股份有限公司)においては、会社責任者とは董事を指します。

最高法院は、2024年12月4日、忠実義務等について、ビジネス環境は複雑であり、経営判断に必要な専門性は高く、経営判断には一定の難度があることから、会社の経営に関する意思決定を尊重することを前提に、一定の客観的な基準に従って、会社責任者が忠実義務を果たしているか否かを検討すべきである旨を判示しました(112年度台上字第1306号民事判決)。また、同判決では、忠実義務等について、法律上明文があるわけではないが、商業事件審理細則第37条が提示する斟酌事項を参考にすることができる旨が示されました。

判断の基準

商業事件審理細則は、商業事件審理法に基づき2021年に制定されたもので、第37条では、裁判所は、商業事件の審理において、会社責任者が忠実義務等を尽くしたかどうかを判断するために、以下の状況を斟酌することができる旨が規定されています。

1. その行為が善意に基づきかつ誠実であるかどうか。

2. その判断をするための基礎となる十分な情報があるかどうか。

3. 利益相反、判断の独立性の欠如、または回避事由があるかどうか。

4. 裁量権の濫用があるかどうか。

5. 会社の運営について必要な監督を行っているかどうか。

商業事件審理細則に定められた考慮要素もまだ抽象的ではありますが、合同会社または株式会社の董事が業務を執行する際に一定程度参考にすることができます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。