第25回 会社の株主名簿の記載について

台湾高等裁判所は2013年5月21日の13年上字第230号判決において「会社の株主名簿の記載内容は絶対的な効力を有するものではなく、もし株主名簿に記載されていない者が、実際に会社の株式をすでに取得していることを証明する別段の証拠があれば、株主の権利を行使することができる」という判決を下した。

本件の概要は以下の通りである。

A株式会社は11年4月末に株主総会を開催し、当時の董事、監査役を解任する決議を行った。A社の株主である甲は「会社法第199条および第227条の規定に基づき、株主総会が董事、監査役の解任決議を行う場合、発行済み株式総数の3分の2以上を代表する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数の同意をもって決議を行わなければならない。しかしながら、A社の株主総会前の最新の株主名簿によれば、A社の株主は甲、乙、丙、丁の4人であり、丙、丁のみが株主総会に出席し、丙、丁の保有する株式の合計はA社の株式総数の40%未満であるため、董事、監査役を解任する当該株主総会決議は明らかに不適法である」と考えたため、A社を被告として、当該株主総会決議の不成立の確認を求める訴えを提起した。

株主名簿の効力

裁判所は審理の結果、以下の判決を下した。

「会社の株主名簿に登記されている株主は、当然、株主であると推定することができるが、株主名簿の記載内容は絶対的な効力を有するものではなく、もし株主名簿に記載されていない者が、売買、譲渡等の理由により実際には会社の株式をすでに取得していることを証明する別段の証拠があれば、法に基づき株主の権利を行使することができる。調査の結果、A社が株主総会を開催したとき、丙、丁のほかに戊、己も出席し、議決に参与していた。なお、戊、己は株主総会前にすでに売買、譲渡等の理由によりA社の株式を取得しており、戊、己は実際にはA社の株主である以上、形式上は株主名簿に登記されていなくても、株主総会に出席し、議決に参与するなど株主の権利を行使することができる。本件において、丙、丁、戊、己の株式の合計は88%に達しており、当該解任決議は当然有効であるため、甲の敗訴という判決を下す」。

そのため、台湾においては、株主名簿は会社の持株状況を判断する重要な根拠ではあるが、株主名簿が絶対的な効力を有するわけではないことに十分に留意しなければならない。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。