第33回 雇用主による一方的な就業規則の変更について

台北地方裁判所は2013年9月18日に11年度重労訴字第8号民事判決書を作成し、雇用主が労働者と協議せず、一方的に会社の就業規則を変更する場合において、その変更後の内容が労働者にとって著しく不利であるときは、原則として反対する労働者を拘束することはできない。ただし、雇用主が行った変更が、経営上の必要によるもので、また、その変更が合理性を有するときは、例外的に反対を表明する労働者を拘束することができるものとする、と指摘した。

本件の概要は、次の通りである。

原告・甲は被告会社・乙の労働者であり、甲は、乙が事前に労働者と協議せず、一方的に業績評価および人事考課の方法など、従業員の業績賞与、成績考課賞与の根拠となる会社の就業規則を変更したことにより、当該就業規則修正後に甲を含む多数の労働者の受け取る賞与が大幅に減少したと主張した。賞与は従業員の賃金の一部であるため、乙が賃金を引き下げようとする場合には、従業員の同意を得なければならない。また、乙が一方的に会社の就業規則を変更したことで従業員が不利益を被っており、乙の当該変更行為は法律における「不利益変更禁止の原則」に違反しているとして、甲は訴訟を提起し、乙の変更行為は無効であり、また、乙は甲に対して就業規則を変更したことにより減少した賞与を支払うべきだと主張した。

合理性が判断基準

裁判所は審理の上、以下の通り判断した。

まず、労働基準法第2条の規定によると、「賃金」とは、労働者が労働により受け取る報酬をいい、賞与、手当ならびにその他名称の如何を問わない経常的給付を含む。被告の就業規則には修正前から、「一定の基準に達しない場合には、業績賞与を支給しない」、「従業員は会社の規定に基づき、賞与を受け取ることができる」などの規定があったことから、賞与の支給には一定の条件があり、また、支給「しなければならない」ということではないため、労働基準法における賃金の「経常的給付」という要件には該当しない。従って本件の乙の就業規則に規定されている賞与は賃金ではない。

次に、雇用主が就業規則に定める賞与などの従業員の福利事項は、労働者が利益を享受するためである他、雇用主の経営利益なども考慮しなければならず、よって合理性を具備する状況において、賞与を支給する対象、資格などに関して、雇用主が一方的に変更または制限を加えることが許されるものとし、かつ反対する労働者を拘束することができる。合理性については、労働者が就業規則の変更により被った不利益の程度、就業規則変更の必要性などを裁判所が総合的に判断するものとする。

本件の就業規則には、賞与の支給方法は董事会が決定するなどの内容が元から記載されており、かつ変更の内容は甲の権益を過度に剥奪しているわけではなく、その変更には合理性があり、また、不利益変更禁止の原則にも違反していないため、甲は拘束を受けるものとし、甲が敗訴との判決を下した。

実務上、就業規則に関する紛争は常に発生しており、本件判決は留意すべきものである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。