第37回 雇用主が労働者に対して行う職務変更について

台湾高等法院の高雄分院は2013年8月28日、12年度重労上字第3号民事判決において、「雇用主が企業の経営上必要であるため労働者の職務を変更する場合において、変更後の業務内容が以前の業務内容と異なるときは、労働者の賃金は当然、若干変更される。変更後の賃金が低過ぎることのみをもって当該職務変更が違法である、と認定することはできない」という判決を下した。

職務変更による賃金減額は違法か

本件の概要は以下の通りである。

甲は薬剤師の免許を有しており、91年から乙病院に勤務し、03年から手術専門の医療技術士となった。乙病院は08年、医療法第58条に「医療機関は、臨床補助者を置き医療業務に従事させてはならない」という規定が追加されたことを理由に甲の職務を変更したため、甲の月給は大幅に減少した。甲は乙病院による職務変更を拒み、かつ高雄市の労働局に労働争議の調停を申請し、「乙病院における以前の担当部門に戻す」または「異動には同意するが、乙病院は以前と同等の賃金を提供しなければならない」などの主張を行った。その後、乙病院は甲の異動先として約15の職務を提示したが、甲は賃金が低過ぎるとしていずれも拒み、乙病院は甲が異動可能な適切な業務がないため、最終的に08年11月に雇用契約を終了した。これに対し、甲は乙病院の解雇行為は違法であるとして、甲と乙病院の間に雇用関係の存在を確認する訴えを提起した。

裁判所は審理の上、以下の通り判断した。

「労働基準法第11条第4号の規定には、業務の性質の変更により労働者を減らす必要があり、また異動可能な適切な業務がない場合、雇用主は予告の上、労働契約を終了することができる。また、最高裁判所の09年度台上字第600号判決によれば、雇用主は労働者の業務を変更する際は、企業経営上の必要性および職務変更の合理性の有無を考慮しなければならず、労働者が異なる業務を担当する場合、その受領する賃金は当然、若干変更され、賃金総額の減額のみをもって、職務変更を違法と認定することはできない」

業務内容で賃金や手当は異なる

本件においては、改正後の医療法によれば、甲は薬剤師の免許しか有さず、法に基づき医療補助行為である手術専門の医療技術士を担当することはできない。当然、乙病院は甲の職務を変更する必要があった。また、甲はそれまで手術室で働いていたが、業務内容は厳しく、リスクも高いため、乙病院は甲に対し手術室特別手当を支払っていた。甲の職務変更後、賃金は従来より低くなったが、これは、業務内容の変更により手術室特別手当がなくなったためである。業務内容が異なる以上、当然、賃金や手当も異なり、乙病院による甲の賃金調整は合理的かつ合法的なものである。

よって、乙病院は医療法第58条の改正に伴い、甲にこれまでと同じ勤務をさせることができなくなったため異動させたが、甲は賃金が低過ぎることを理由に乙病院による異動を拒んだ。

この場合において、乙病院は他に適切な職務を提供することができない以上、当然、労働基準法第11条第4号に基づき労働契約を終了させることができるとして、甲敗訴の判決が下された。

本件判決によれば、雇用主は正当な理由をもって労働者の職務を変更した場合、変更後の賃金がこれまでの賃金を下回っていても、違法とはならないということをご参考頂きたい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。