第72回 公の秩序に違反する株主総会決議

最高裁判所2014年台上字第620号判決によれば、株主総会の議案の内容が、予め確定判決の効力を否認するものである場合、当該決議は公の秩序に違反すると判示した。

本件の概要は以下の通りである。

上告人(原告)であるXは被上告人(被告)であるY社に雇用されていたが、Yによる解雇が違法であるとして、雇用関係存在の確認の訴えを提起し、高等裁判所台南支院がYの敗訴を言い渡した。

そこで、Yは株主総会で、「(1)当社とXとの間の雇用関係存在の確認の訴えについて、当社敗訴の判決が確定した場合でも、当社はXに毎月の賃金を支給するのみであり、Xの役務提供を拒むこととなる。(2)当社のそのほかの整理解雇、懲戒解雇、または解雇に類する事情のある従業員がいる場合、当該従業員が裁判所に雇用関係存在の確認の訴えを提起し、当社敗訴の判決が確定したときには、当社は情状を斟酌し、上記(1)の方式により処理するか否かを決定することができる」と決議した。

Xは、当該決議が自己の勤労権を侵害しており、また、明らかに他者を侵害することを目的とするものであり、かつ、会社法第202条(会社の業務執行については、本法又は定款の定めに基づき株主総会において決議しなければならない事項を除き、全て取締役会の決議をもって行わなければならない)及びYの定款に違反し、また株主総会の召集手続きにも違反していると主張し、当該決議の無効確認の訴え(主位的請求)及び当該決議の取消しの訴え(予備的請求)を提起した。

裁判所は審理の上、以下の通り判示した。

第一審及び第二審は最高裁判所2000年台上字第267号判決を引用し、使用者(会社)は賃金を支給する義務を負うが、役務を受領する義務を負わないと判示し、Xの敗訴を言い渡した。Xは第二審の判決を不服として、最高裁に上告した。

最高裁は以下の通り判示し、原判決を破棄して台湾高等裁判所台南支所に差し戻した。

会社法第191条における決議内容が法令に違反する場合には、株主平等の原則違反、株主有限責任の原則違反、株式譲渡自由の原則違反、株主の固有的な権利を侵害する場合のほか、決議が強行法規又は公序良俗に違反する場合も含まれる。
当事者が事前に確定判決の効力を否認することができるとすると、予め任意に判決の拘束力を排除することを容認したことと同じであり、判決の効力である公益性及び強行性に違反し、公の秩序に違反すると考えられるべきである。

労働契約から生じた雇用関係には、「被用者の役務提供」及び「使用人の報酬支給」が含まれているが、裁判所の判決により、当事者の間に雇用関係が存在していると確認されれば、この雇用関係の内容には「使用人の報酬支給」だけでなく、「被用者の役務提供」も含まれ、当事者のいずれかが一方的にこれを排除してはならない。

Yは判決の確定前に、株主総会決議により予めXの役務提供を拒み、またそのほかの整理解雇、懲戒解雇、または解雇に類する事情のある従業員に対しても同じ処理を行えることを決定している。このような決定は、Yが予め株式総会決議をもって裁判所の確定判決の内容を否認するものであるため、公の秩序に違反するか否かについて、再考の余地はないわけではない。

会社法第191条における決議内容が法令に違反する場合には、決議が強行法規又は公序良俗に違反する場合も含まれることに注意が必要である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。