第92回 外国会社としての認可・登記前に事業を行った者の民事責任
会社の設立登記が完了するまでは、会社の名義で事業を行ってはならず、会社登記の完了前に、当該会社の名義を使用して事業をした者は、相手方に対し、自ら当該取引によって生じた民事責任を負わなければならないとされている(会社法19条)。
他方、外国の法令に準拠して既に設立されている外国会社は、認可を得て、かつ支社の登記をするまでは、台湾において事業を行うことができないとされている(会社法371条)が、その責任についての明文の規定はない。
そのため、会社法371条の規定に違反して取引をした者の責任について、問題になった事件がある。
本件の概要は以下の通りである。
A社は外国の法令に準拠して設立された外国会社であり、台湾において会社の設立登記をせず、外国会社としての認可も得ず、支社の登記もしていない。自然人のYがA社の代表者として、B社との間で機器の売買契約を締結したが、代金のうち、約500万台湾元をB社に支払わなかった。B社が当該売買代金債権をX社に譲渡した後、XはYに対して、会社法377条(会社法19条は外国会社に準用される)に基づき、約5百万台湾元の代金の支払いを求めた。
2004年12月9日台湾高等裁判所102年度上字第1324号判決は、以下の通り判示し、会社法19条は、既に設立された外国会社には適用されないとした原判決を破棄し、Xの請求を認めた。
会社法377条には、会社法19条は外国会社に準用されると規定されており、会社法19条を外国会社に準用する場合、19条1項にいう「設立登記をしていない」会社は、「認可を得ず、支社の登記をしていない」外国会社と言い換えることができ、認可を得ていない外国会社の名義を使用して事業を行った者は、相手方に対し、自ら当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負わなければならないと解釈することができる。
なお、会社法371条によれば、認可を得ていない外国会社は原則として台湾において事業を行うことができないが、他方、会社法386条によれば、外国会社は台湾において支店を設立して事業を行う意思がない場合、官庁に会社の届出をするだけで、代表者を派遣して台湾で業務上の法律行為を行うことができるとされている。しかし、この趣旨はビジネスの実情を踏まえつつ、自国国民の保護に資するものであり、単なる例外規定にすぎない。原審は、会社法386条が例外的な規定であることの趣旨に反し、既に設立された外国会社は会社法19条の適用外とし、会社法371条の規定に違反して取引をした者が当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負わないと限定解釈しているが、このような解釈は適切ではない。
認可を得ていない外国会社の名義を使用して事業を行った者の責任については、会社法19条が準用され、取引をした者は相手方に対し、自ら当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負わなければならない点に留意が必要である。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。