第96回 賞与と平均賃金の算定について

台湾において、従来の退職金制度(2005年6月30日以前に雇用され、かつ、従来の退職金制度の継続を選択した労働者に適用される)によれば、労働者が定年退職した際、使用者は当該労働者に対し、平均賃金を基準とした定年退職金を支給しなければならないとされている(労働基準法53条、55条)。この平均賃金とは、退職日の前の6か月の間に当該労働者の取得した賃金の総額を、該当する6か月間の総日数で除した金額をいう(労働基準法2条4号)が、平均賃金の算定方法に関連して、賞与を平均賃金に算入すべきかが問題になった事件がある。

本件の概要は以下の通りである。
原告Xは被告Y社に雇用され、10年9月1日にYを定年退職した。Xは、YがXに対し、給与の2か月分相当額の年末賞与34万台湾元を定年退職金の算定の基礎となる平均賃金に算入すべきだと主張したが、Yはこれを拒否した。

13年6月18日台湾高等裁判所101年度労上字第42号判決は、以下の通り判示し、一審判決を維持し、Xの主張を認めなかった。
1. 年末賞与の09年支給分は、10年1月15日に支給されているので、Xの退職日である10年9月1日の前の6か月の間に労働者が取得した賃金に当たらず、平均賃金に算入されるべきではない。
2. XはYとの間で、年俸額を14分割し、その1を毎月支給し、年1回の年末賞与支給時に、その2を支給する旨の労使合意がなされていたと主張したが、Xはこれを証明することができなかった。

Xは高裁の判決を不服として、最高裁に上告した。14年4月10日最高裁判所103年度台上字第682号判決は、以下の通り判示し、高裁の判決を維持した。
年末賞与その他の非恒常的な奨励金は、恩恵的・奨励的性格を持つ支給に過ぎないため、労働基準法上の「賃金」には当たらず、また、労働基準法施行規則10条2号においてネガティブリストとして列挙されている。従って、本件年末賞与を平均賃金に算入しないとした原判決の上記理由が不当であっても、結果に影響を及ぼすことはない。

台湾の労働基準法29条は、黒字が生じた場合には、使用者は1年を通じてミスを犯していなかった労働者に対して、奨励金の支給又は収益の分配を行わなければならないと規定しているが、多くの裁判例では、黒字決算、ミスがなかった等といった条件付きで支給される年末賞与については、給付の恒常性を有していないため、「賃金」に当たらず、定年退職金の算定の基礎となる平均賃金に算入されないとされている。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。