第107回 労働基準法における解雇事由の「就業規則に違反し、その情状が重大である場合」について
最高裁判所は、今年(2015年)7月1日に作成した15年台上字第1227号判決において、労働者が就業規則に違反する具体的な事実として、雇用主の内部秩序・規律の維持に大きな影響を及ぼし、雇用主およびその従事する事業に対して相当なリスクをもたらすのに十分なレベルであり、客観的に見て、雇用主が解雇以外の懲罰手段を講じることを期待するのが難しい場合、労働基準法に定める「就業規則に違反し、その情状が重大である場合」の解雇要件に該当する、と指摘した。
本件の概要は次の通りである。
甲は、06年に乙社に入社し、倉庫管理者として、倉庫の管理、商品の出し入れ、包装スタッフの管理などの業務を担当していた。09年、乙社は、甲に出勤退勤時刻を遵守しない、勤務時間中に乱酔する、無断で持ち場を離れる、虚偽の請求書を作成して包装スタッフの賃金を水増しして受領するなどの就業規則に違反し、その情状が重大であるなどの状況がある、と判断したため、甲を解雇した。甲は乙の解雇行為が違法であるとし、訴訟を提起して甲、乙の間に雇用関係が存在することの確認を請求し、また乙に対し違法解雇後の未払い賃金を支払うよう請求した。
第一審の裁判所の判決では甲が敗訴したが、第二審の裁判所では甲の就業規則の違反について、その情状は重大ではないと判断されたため、一審を覆して甲の勝訴判決とし、第三審の最高裁判所では再度第二審の見解を破棄し、次のように指摘した。
一、労働基準法の第12条の第1項の第4号では、労働者が就業規則に違反し、その情状が重大な場合、雇用主は予告なしで契約を解除することができる、と定められている。「その情状が重大である場合」の要件に合致するかどうかの判断は、労働者の規則違反行為の状態、初回又は数回目か、規則違反が故意又は過失によるものか、雇用主およびその従事する事業に対してもたらすリスク又は損失、商業上の競争力、内部の秩序・規律の維持、労使間の関係の緊密性、労働者が職務に就いてからの期間の長さなどを考慮して、懲戒解雇のレベルに達するか否かを判断しなければならない。
二、労働者が就業規則に違反した具体的な事実が、雇用主の内部秩序・規律の維持に大きな影響を及ぼし、雇用主およびその従事する事業に対して相当なリスクをもたらすのに十分なレベルであり、客観的に見て、雇用主が解雇以外の懲罰手段を講じることを期待するのが難しい場合、上記の「その情状が重大である場合」の要件に合致しないとは判断し難い。
三、本件において甲は乙社に雇用されている間、虚偽の請求書を作成し、包装スタッフの賃金、食事代計2万元余りを水増しして受領したため、刑事裁判所により4ヶ月間の懲役に処されることが確定した(罰金に換えることも可能)。甲が二ヶ月という短い期間に、包装スタッフの賃金を25回、包装スタッフの食事代を21回水増しして受領したことは、すでに労使間の信頼関係に対して重大な影響を及ぼしており、「その情状が重大である場合」のレベルに達していないとは言いがたい。
本件の最高裁判所の判決は、「就業規則に違反し、その情状が重大である場合」について、分かり易い解釈を示している。本件からは、従業員が短期間に就業規則に複数回違反し、かつ犯罪に関わる場合、「その情状が重大である場合」に該当する可能性が高いことが分かり、会社の経営陣の参考に値する。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。