第119回 欠損または業務縮小を理由に労働契約の予告解除可能

台湾高等裁判所は2015年10月13日付2014年度重労上字第39号の民事判決において、「使用者に欠損または業務縮小の情況が確かにあり、労働者に対して労働契約の解除を予告する場合において、その解雇が無効となる違法な問題が生じていないが、使用者がこれらを理由にして労働契約を解除するときは、最終手段性の原則に適合しなければならない」と指摘した。

本件の概要は次の通りである。

甲は2000年から台湾ノキアで勤務しており、09年には財務長に昇任し、月収は20数万台湾元であった。11年末、台湾ノキアは「損失または業務縮小」を主な理由として甲を解雇したが、甲は台湾ノキアの解雇は違法であると考えたため、ノキアを被告として訴訟を提起し、当該解雇行為は無効であると主張し、未払い賃金を支払うよう台湾ノキアに要求した。

本件の第一審の台北地方裁判所および第二審の台湾高等裁判所は、いずれも甲の敗訴の判決を下した。主な理由は以下の通りである。

1)労働基準法第11条第2号には「欠損がある、または業務縮小を行う場合、使用者は労働者に予告することにより労働契約を解除することができる」と規定されている。ここでいう「業務縮小」とは、かなり長い期間において使用者の経営が不振であり、生産量および販売量が共に明らかに減少し、会社の全体的業務について範囲を縮小しなければならないことを指す。労働基準法第11条第2号において、なぜ使用者が予告により労働契約を解除することができるかというと、景気の悪化、市場環境の変化などの情況により企業経営は業務を縮小せざるを得ず、このことから余剰人員が発生し、経営の合理化を求めて労働契約の解除により労働者の人数を減らすことは必然的であるからである。

2)次に、使用者が労働基準法第11条第2項の規定に基づき欠損または業務縮小を理由に労働契約を解除する場合は、「最終手段性」の原則に適合しなければならず、すなわち使用者の業務縮小または欠損の状態が一定の期間持続しており、かつほかに代替可能な方法がなく、景気の悪化または市場環境の変化に対処する場合でなければ、使用者は欠損または業務縮小を理由として雇用契約を解除することはできない。

3)本件において、ノキアグループの本社の10年度の営業利益は20億7,000万ユーロであったが、11年度の営業利益は10億7,300万ユーロの赤字であり、12年第1四半期、第2四半期の営業利益はそれぞれ10億3,400万ユーロの赤字、8億2,600万ユーロの赤字であり、ノキア本社は11年より深刻な欠損の状態が継続していたことが分かる。台湾ノキアの売上高は11年から継続して大幅に下落し、かつノキアグループの世界各地の会社ではいずれも大規模なリストラを実施しており、台湾ノキアに欠損または業務縮小の情況が確かにあると認めるのには充分である。また、台湾ノキアには甲を配置することができるそのほかの適当な職務がなくなったため、当該会社の解雇行為は、最終手段性の原則に違反していない。

会社が欠損または業務縮小により従業員を解雇することは、実務上、よく見られるケースである。従業員が解雇を受け入れられないために会社を訴え、不必要な訴訟を引き起こすことを避けるよう、解雇前に従業員に会社の欠損が深刻である情況の程度を理解させることをお勧めする。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。