第122回 ネットショッピングの国際決済代行に関する刑事責任

台湾でもインターネットショッピングは盛んであり、インターネットにおける支払いのプラットフォ−ムも設立されている。

インターネットにおける支払いのプラットフォ−ムの中でも特に有名なのが、中国の阿里巴巴集団(アリババグループ)が設立した「支付宝(アリペイ)」である。

例えば、買主および売主が「淘宝網(タオバオ)」(中国最大の商品取引サイト)で商品取引を行う際に、買主および売主双方のアリペイ口座を代金支払・受領のツールとして利用することができ、また売主を保護するため、アリペイは、買主の口座に商品代金の支払いに十分な残高があって初めて、商品を発送するよう売主に通知することになっている。他方で、買主を保護するために、買主が商品を受領し、検査の上間違いがないことを確認して初めて、売主の口座に商品代金が入金される。

しかし、アリペイに関し、銀行法との関係で、刑事責任が問題となった事件がある。

違法な「両替業務」に該当

新北地方裁判所は、2013年6月13日、2013年度金訴字第1号刑事判決において、不特定の者から台湾元を受領して、当該不特定の者のためにアリペイのポイントを購入し、チャージした場合も「両替業務」に該当し、銀行ではない者がこのような行為を行った場合、銀行法第29条に違反し、行為者は刑事責任を負うと判断した。

本件の概要は、以下の通りである。

被告甲は台湾のあるサイトに、タオバオで商品を購入したいがアリペイ口座を持っていない台湾の顧客のために、アリペイの受領・支払代行サービスを提供する旨の広告を掲載した。具体的には、商品を購入したい台湾の顧客がタオバオ上の商品の人民元での販売金額を、その時の為替レートで台湾元に換算して甲に渡し、その後甲が自身のアリペイ口座にチャージし、かつ中国の売主にアリペイを通じて代金を支払うというものであった。なお、甲は、顧客から50台湾元の報酬を受け取ることができるとされていた。

資金の移転・清算関係を問題視

銀行法第29条第1項では、「法律に別段の規定がある場合を除き、銀行でない者は預金の受け入れ、信託資金・公衆財産の管理の受託または国内外の両替業務を経営してはならない」と規定されているが、新北地方裁判所は、上記行為について、アリペイにおけるバーチャルのポイントは人民元による現金と相互に変換することができるため、甲は顧客から台湾元を受領して、当該顧客のために人民元で価格計算する債権債務関係の決済を行ったといえ、このような資金の移転・清算関係は、銀行法上の「両替業務」に該当するとして、銀行ではないのに「両替業務」を行った甲に対し、銀行法第125条、第125条の4の規定に基づき、懲役1年6月(執行猶予4年)を言い渡した。

中国のタオバオは、台湾でも人気があるが、原則として、アリペイ口座がなければタオバオでは取引ができないため、他人のアリペイ口座を通じて取引を行うというニーズが生まれている。しかし、上記裁判例からすると、台湾元を受領して、他人のためにインターネット上で国際決済を行う行為は、違法な「両替業務」に該当する可能性があるので、厳重な注意が必要である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

(本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに執筆した連載記事を転載しております。)