第156回 退勤時刻の記録について

台北高等行政法院は2016年6月30日付16年度訴字第261号判決において、従業員が退勤時にタイムカードを打刻しないことに同意したとしても、雇用主は従業員の退勤時刻は記録しなければならず、記録しない場合、労働基準法第30条第5項の違反を構成すると指摘した。

本件の概要は次の通りである。

台北市政府労働検査処が15年4月にA社に対し労働検査を実施したところ、A社の従業員甲について、15年1月5日から同年2月28日までのタイムカードに出勤時の打刻記録しかなく、退勤時の記録がないことが発覚した。労働検査処は、A社が従業員の退勤状況を記録しておらず、労働基準法第30条第5項に違反していると認定し、A社に対し2万台湾元の過料を科すとともに、A社の社名を公表した。A社は、甲の退勤時にタイムカード打刻の必要がないことはA社と甲の双方が同意しているとして、労働検査処による処罰の受け入れを拒否。さらに台北市政府を被告として行政訴訟を提起し、当該処分を取り消すよう求めた。

記録がないのは違法

台北高等行政法院は審理後、A社敗訴の判決を下した。主な理由は次の通りである。

  1. 労働基準法第30条第5項には、雇用主は労働者の出勤状況を出勤記録またはタイムカードに記載しなければならないと規定されている。また、同法第79条第1項第1号および第80条の1には、第30条の規定に違反した場合、主管機関は2万元以上30万元以下の過料を科し、その事業組織または事業名を公表しなければならないと規定されている
  2. 労働基準法第30条第5項の立法意図は、出勤記録またはタイムカードにより労働時間を確認し、給与算定の基礎とするというものである。記録がない場合、従業員の労働時間を確認できないため、退勤時にタイムカードを打刻しないことに従業員が同意したとしても、雇用主は従業員の退勤時刻を毎日記録すべきである
  3. A社は従業員甲の退勤時刻を記録しておらず、労働基準法第30条第5項の規定に違反しているため、労働検査処の処罰処分は妥当である

会社の出勤記録またはタイムカードに従業員の出退勤時刻が確実に記録されているか否かは、主管機関が労働検査を実施する場合の重要なポイントであるため、特に注意していただきたい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。