第171回 保証契約における先訴の抗弁権の制限
保証契約とは、主たる債務者が債務を履行しない場合、代わりに保証人が履行責任を負うことを約定する契約である。
保証契約により生じる債務について、民法第745条では「保証人は、債権者が主たる債務者の財産について強制執行をしても効果を得ない場合を除き、債権者に対し弁済を拒むことができる」と規定されている。このような保証人の抗弁権は、台湾では通常「先訴の抗弁権」と呼ばれる。
しかし、民法第746条では先訴の抗弁権の制限について規定されている。すなわち、「下記の事由のいずれかに該当する場合、保証人は前条の権利を主張することができない。1.保証人が前条の権利を放棄した場合。2.主たる債務者が破産宣告を受けた場合。3.主たる債務者の財産がその債務の弁済に不足している場合」と規定されている。
この中でも重要な制限が第746条第1号であり、同号によれば保証人が先訴の抗弁権を放棄している場合、保証人は債権者に対し「先訴の抗弁権」を主張することができないことになる。そのため、台湾における保証契約の実際の運用においては、例えば、一般人が銀行から借入を受け、保証人による債務の保証を要求された場合、銀行が提供する定型契約書には「保証人は民法第745条の権利を放棄することに同意する」と規定されている場合がほとんどである。このような規定がある場合、債権者が主たる債務者に借入金債務の弁済を請求する前に保証人に弁済を請求すれば、保証人は債権者の請求を拒むことができない。
上記のとおり、民法第746条の規定が国民生活に与える影響は甚大であるため、かつて、改正の必要があると考えた立法院の議員が民法第746条第1号の削除を提案したことがある。しかし、議員が提出した民法第746条第1号を削除する提案については、保証人に先訴の抗弁権を放棄させることができなくなることから、経済秩序に対する影響が多大であると判断されたため、立法院において可決されなかった。
なお、この際、同時に旧民法第746条第2号、すなわち、「保証契約成立後、主たる債務者の住所、営業場所または居所が変更され、主たる債務者に対する弁済の請求が困難となった場合」の削除も提案され、民法第746条第2号を削除する改正案については可決された。これにより、たとえ主たる債務者が債務を逃れるために行方不明となった場合でも、保証人は、債権者が主たる債務者の財産について強制執行をしても効果を得ない場合でない限り、債権者に対し弁済を拒むことができることとなった。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。
執筆者紹介
早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。
本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。