第209回 台湾の約款で日本の合意管轄裁判所を約定できるのか?

台湾で商業活動を行うに当たり、契約の準拠法を日本法と定め、日本の裁判所を唯一の合意管轄裁判所とすることを約定した場合、台湾の裁判所で裁判を行うことはできるのでしょうか?

その契約が協議した上で決定されたものである場合には、契約自由の原則に基づき、通常、裁判所は双方の自由意思を尊重しますので、合意した裁判所においてのみ裁判を行うことができます。

しかしながら、約款(すなわち、企業の経営者が多数の消費者と同種の契約を締結するために、事前に作成する契約)である場合には、企業が強い立場にあり、消費者は弱い立場にあるため、消費者は自由に協議することができません。

そのため、法的には弱い立場にある消費者を保護するとの観点から、消費者に合意管轄条項を遵守する必要はないとの判断がなされる可能性があります。

台北地方裁判所の2013年北消小字第8号民事判決では、日本のある航空会社がその運輸条項において日本法を準拠法とし、日本の大阪地方裁判所を合意管轄裁判所とすることを約定したことについて、裁判所は、「同社が台湾の消費者に対して高いコストを費やさなければ訴訟を提起することができないことを要求することは、信義誠実の原則に反している。消費者に対して著しく公平を失するものであり、当該条項は消費者保護法第12条第1項により無効とする」との判断を下しています。

もっとも、強調しておかなければならないのは、同判決は単に「合意管轄裁判所が日本にあること」のみを無効理由としているわけではなく、▽契約言語が英語であること▽内容があまりにも多いこと▽合意準拠法および管轄裁判所の字体について特別な表示をしておらず読みにくいこと▽消費者の通常の消費金額(航空券の代金)と裁判のために日本に行くことに要するコストの差があまりにも大きいこと——などを補足理由として考慮した上で、消費者に当該合意管轄条項を遵守する必要はないとの判決を下しているという点です。従って、約款で日本の合意管轄裁判所を約定することは必ず無効というわけではありません。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。