第223回 台湾法における「破産」

台湾法上の破産制度の概要は以下の通りです。

1.破産手続きの開始

破産法第1条によれば、債務者が債務を弁済できない場合、同法に定められた和解または破産手続きに従って、その債務を清算すると規定されています。なお、台湾法上、裁判所に対して破産宣告を申し立てる権利を有する者は主として以下の通りです。

一.債権者または債務者本人は、破産宣告を申し立てることができます。

二.株式会社の取締役会は、株式会社の資産がその債務弁済に明らかに不足する場合には、会社法上の更生手続きによる処理が採られる場合を除き、破産宣告を申し立てなければならないと規定されています。

三.裁判所は会社の業務および財務状況に照らし、更生の可能性はないと判断したことを理由に、更生手続開始の申し立ては棄却するものの、同会社が、破産条件には符合すると判断する場合には、その裁量により、破産宣告を行うことができます。

2.破産手続きの進行

台湾の破産手続きの進行について、具体的には、破産財団に属する財産の範囲を確定し、裁判所から選任された破産管財人が破産財団に属する財産を競売などの方法で売却し、それによって取得した金銭から、破産管財人が破産財団の処分および管理などによって生じた費用を控除し、残った部分を各債権者に分配することになります。なお、破産者が債務弁済に供する財産を有しておらず、破産財団を破産管財人の管理費用に供することができないときには、裁判所は、破産法第63条の規定により、破産の申し立てを棄却することができます。

3.破産手続きの終了

破産管財人は前述の手続きに基づいて破産財団に属する財産を清算し、各債権者の債権額の割合に応じて分配した後、裁判所に報告しなければなりません。なお、裁判所は当該報告書を受領した後、破産手続きを終結させる裁定を下すことが可能です。

通常、台湾企業は既存の債務を弁済するため、正式な破産手続きに入る前に、当該企業の経営陣が会社の資産について買主を探し、可能な限り有利な価格で処分することが一般的です。

その理由としては、破産手続きに入ると、企業の資産に対する管理・処分権が、当該企業の経営陣から、裁判所が選任した破産管財人に移るからです。

次に、破産手続きに入った後の破産管財人の役割とは、主として、公平中立の原則の下、各債権者の利益を配慮する立場に立ち、各債権者に対して弁済または配当するため、特定の債権者にのみ有利な扱いをする可能性は低いです。

よって、債権者は債務者から債権を回収したいのであれば、戦略上、破産手続きに入る前に、債務者と交渉などで解決するほうが得策であると考えます。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。